恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「おっと、そろそろデザートが来たようですね。それでは、私は自分の席へ帰ります。資料室の件、お手数かけて申し訳ありません」
「いえ。できるだけ早く取りかかれるようにしますね」

 部長を見送ると、入れ替わりで真城さんが戻って来た。

 彼もデザートを食べにきたのかな。

「真城さん、おかえりなさい」
「……ああ。今、部長となんの話を?」
「えっ? 仕事の話ですけど」
「仕事って?」
「それは……」

 針ヶ谷さんが大切なデータを削除したせいで国内営業部がてんてこ舞いらしいです。

 真城さんになら正直にそう話してもいいと思ったけれど、デザートとコーヒーがテーブルに揃った今、個室内にはなんとなく静かな時間が流れているので、針ヶ谷さん本人の耳に届いてしまう可能性もあり、本当のことは言い出しづらかった。

「個人的に特命を仰せつかりまして」
「……ふうん」

 真城さんはつまらなそうに言って、小さなケーキにフォークを入れる。

 資料室の整理も図の作成も大した仕事ではないのに、特命なんて言ってしまったのがまずかったのかもしれない。

 自分の方が有能なのに、なんで異動したばかりの新人に仕事を任せるんだって。

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