恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「ええ。ですからそれまでの間は資料室のデータを使用することになるのですが、神崎さん以外の社員は普段から使っていなかったので、取り出した後元に戻す場所が間違っていたり、そもそも適当に戻していたりして、情報があるべき場所にないんです。それを正せる社員が、残念ながら国内営業部には誰もいないようで」
……なるほど。浅井部長が私になにを頼みたいのか、なんとなく察した。
肉体的には骨が折れるかもしれないが、そう難しい仕事ではない。
「わかりました。資料をあるべき場所に戻せばいいんですよね」
「神崎さん、ありがとうございます……! ちなみに、万が一同じことが起きた時のために、置き場所を示した図もあると助かるのですが」
ここまできて断るわけにもいかない。正直自分の仕事で手一杯ではあるけれど、前にいた部署のピンチを見捨てるのも良心が咎める。
残業するか、朝早くに来てさっさとやってしまおう。
「確かにそうですね。今まで、私しか使わないから、自分だけ資料の場所を覚えていればいいと思っていた私も悪かったんです。時間を見つけて作ってみます」
「恩に着ます……! しかし、神崎さんを失った国内営業部の痛手は思った以上ですよ。針ヶ谷くんをリーダーにするわけにもいきませんしね……」
最後の台詞は独り言だったのか、聞こえるか聞こえないくらいの声だった。
浅井部長も上司として、彼の扱いに苦労しているのだろう。