恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「お疲れ様。ニルセンさん、これなら安心して自分のワインを俺たちに預けられると喜んでいたな。きみが、和食とデンマークワインのペアリングについて詳しく調べてくれたおかげだ」
神崎さんはパソコンや周辺器具を片付けつつ、控えめに微笑む。
「いえ、私はなにも……。たまたま前の部署で最後に担当した仕事が和食レストランに国産ワインをプレゼンする仕事だったので、今回も似た手法でアプローチしてみただけです」
「それは謙遜だよ。経験を生かすって意外と簡単じゃないんだ。似た手法と言ったって商品は全然違うし、相手が日本人と外国人では、話の進め方や声の抑揚だって変えるだろう? それが自然とできてたから感心した」
「また営業――」
「トークじゃないよ。ほら、営業部で日報をまとめて早く帰ろう」
疑い深い神崎さんの視線を交わし、荷物を片付けて椅子などを軽く整頓する。
照明を消して会議室を出ると、神崎さんがふと俺を見上げた。
「真城さん、先に戻っていてください。ちょっと寄りたいところがあって」
「了解」
彼女と別れてオフィスに戻り、今日の業務日報と、その他にも部長に通しておきたい書類を仕上げる。
ひと通り事務作業が終わってふと顔を上げた時、神崎さんがまだ戻っていないことに気づく。時計を確認すると、会議が終了してからすでに三十分が経過していた。