恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

 つい、勢いに任せた発言が口からこぼれる。神崎さんは口をつぐんで気まずそうにしていて、またひとりで暴走したか?と、軽く自問自答する。

「なんにしても、早く元気な顔を見せてくれ。相棒の不調は、単純に心配だ」
「真城さん……」

 神崎さんはそれきりなにも言わなかったけれど、静かに目を閉じて俺の腕に身を預ける。これが精いっぱいの甘えだとしたら、少しは俺に気を許してくれたのだろうか。 

 そう思うと心のやわらかな部分がきゅっと痛みを覚え、彼女への愛しさが募った。


 会社の医務室は診療所登録もされており、軽い症状であれば産業医にその場で処置をしてもらえる。とはいえすでに診療時間外だったが、産業医がまだ帰る前だったので神崎さんを診せることができた。

 ひと通りの問診、顔色や脈拍などのチェックしてもらった結果、疲労と寝不足から目眩が起きたのだろうとのこと。

 しばらくベッドで休ませてもらう許可を得て、俺はその間に彼女の荷物を営業部から持ってくる役目を仰せつかる。また、帰宅するためのタクシーも手配した。

 彼女のバッグを持って医務室に戻ると、神崎さんはすでにベッドから体を起こして俺を待っていた。

「もう少し横になっていてよかったのに」
「いえ、もうだいぶよくなりましたし……真城さんのおかげで、気持ちがだいぶ楽になったというか、精神的に救われたので」

 神崎さんが潰れてしまったのは、単なる働きすぎというわけではないらしい。

 彼女は先ほどより幾分スッキリした顔をしているが、問題の根本は解決していないのではないのだろうか。そもそも、彼女がなぜ資料室にいたのかも謎だ。

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