早河シリーズ第六幕【砂時計】
加藤麻衣子は勤務する新宿区信濃町《しなのまち》にある啓徳大学病院を出て、外苑東通り沿いのオムライス専門店に入った。
今は午後7時15分、約束の時間を15分過ぎてしまった。
約束の人物は奥の席で顔を伏せている。麻衣子は彼女の名を呼んだ。
「なぎさ、遅れてごめんね」
「ううん。仕事お疲れ様」
顔を上げたなぎさの目は真っ赤に充血していた。何事かと尋ねると、早河の助手を辞めたと一言だけ言って彼女はまたうつむいた。
二人分の食事の注文を終えて前菜のサラダとスープを味わう時間になぎさが事の次第を語った。
今日は前々からなぎさと麻衣子は夕食の約束をしていたが、まさかこんな話を聞かされることになるとは麻衣子は思いもしなかった。
なぎさが一通りの話しを終えたタイミングでオムライスが運ばれてくる。なぎさはホワイトソースのオムライス、麻衣子は定番のケチャップオムライスをチョイスした。
「なぎさも、早河さんがなぎさを危ない事に巻き込みたくないから辞めさせたってわかっているんでしょ?」
なぎさの口振りから早河の心理は読み取れた。早河はわざとなぎさに冷たくして突き放したのだ。
なぎさはオムライスを口に含んで咀嚼すると一度だけ頷いた。
「わかってる。だけど私はこの先どんなに危険な事が待っていても所長と一緒にいたかった。でもそれはお兄ちゃんや莉央のことは関係無しに、私が彼の側にいたいからってワガママなんだよね」
「早河さんは、なぎさがお兄さんや莉央のことがあるから助手を辞めたくないと思っているのかな。なぎさの気持ちに気付いているってことはない?」
なぎさは苦笑いしてかぶりを振る。
「ないない。あの人、元刑事で探偵のくせに超鈍感なの」
「鈍感な男も困り者だねぇ。隼人みたいに勘が鋭い男も厄介だけど」
麻衣子が笑うと、つられてなぎさも笑った。
「木村さんからその後、莉央の話聞いた?」
木村隼人の名前が出たことで、なぎさは気掛かりだった話を持ち出した。
なぎさと麻衣子の高校時代の友人である犯罪組織カオスのクイーン、寺沢莉央はある事件をきっかけに麻衣子の幼なじみの木村隼人に何度か接触している。
「夏に隼人から莉央の生い立ちを聞かれただけで、後は何も。莉央のことがあって隼人と美月ちゃんが喧嘩したことは聞いてるよ。その後は仲良くやってるみたい」
「そっか。……こんなこと、木村さんが好きだった麻衣子に聞くことじゃないけど、莉央って木村さんに恋したと思う?」
なぎさに聞かれて麻衣子は小首を傾げた。麻衣子は卵に包まれたチキンライスを口に運び、考えながら言葉を紡ぐ。
「どうだろう。隼人と莉央が一緒にいるところを見ていないから何とも言えないなぁ。でも莉央が隼人を好きになることはあるかも」
「木村さんイケメンだもん。麻衣子が好きだった人って情報がなかったら、私だってポーッとなってたかもしれない。芸能人を見る感覚みたいなもの?」
「あははっ。あいつは無駄に顔はいいからね。顔だけじゃなくて、隼人って偏見がない人なの。その人の過去や立場がどうであれ、自分の目で見てその人を判断するって言うのかな。莉央の過去や立場なんて隼人には関係ないのよね」
幼なじみの麻衣子だからこその意見だろう。
「だけど私は美月ちゃんを傷付けて欲しくないから。隼人と莉央のことは応援できないし、莉央には……罪を償って欲しい」
「うん。私も同じ気持ち」
莉央への想いは二人とも同じ。彼女が犯罪者となった今でも、変わらず大切な友人だと思っている。
今は午後7時15分、約束の時間を15分過ぎてしまった。
約束の人物は奥の席で顔を伏せている。麻衣子は彼女の名を呼んだ。
「なぎさ、遅れてごめんね」
「ううん。仕事お疲れ様」
顔を上げたなぎさの目は真っ赤に充血していた。何事かと尋ねると、早河の助手を辞めたと一言だけ言って彼女はまたうつむいた。
二人分の食事の注文を終えて前菜のサラダとスープを味わう時間になぎさが事の次第を語った。
今日は前々からなぎさと麻衣子は夕食の約束をしていたが、まさかこんな話を聞かされることになるとは麻衣子は思いもしなかった。
なぎさが一通りの話しを終えたタイミングでオムライスが運ばれてくる。なぎさはホワイトソースのオムライス、麻衣子は定番のケチャップオムライスをチョイスした。
「なぎさも、早河さんがなぎさを危ない事に巻き込みたくないから辞めさせたってわかっているんでしょ?」
なぎさの口振りから早河の心理は読み取れた。早河はわざとなぎさに冷たくして突き放したのだ。
なぎさはオムライスを口に含んで咀嚼すると一度だけ頷いた。
「わかってる。だけど私はこの先どんなに危険な事が待っていても所長と一緒にいたかった。でもそれはお兄ちゃんや莉央のことは関係無しに、私が彼の側にいたいからってワガママなんだよね」
「早河さんは、なぎさがお兄さんや莉央のことがあるから助手を辞めたくないと思っているのかな。なぎさの気持ちに気付いているってことはない?」
なぎさは苦笑いしてかぶりを振る。
「ないない。あの人、元刑事で探偵のくせに超鈍感なの」
「鈍感な男も困り者だねぇ。隼人みたいに勘が鋭い男も厄介だけど」
麻衣子が笑うと、つられてなぎさも笑った。
「木村さんからその後、莉央の話聞いた?」
木村隼人の名前が出たことで、なぎさは気掛かりだった話を持ち出した。
なぎさと麻衣子の高校時代の友人である犯罪組織カオスのクイーン、寺沢莉央はある事件をきっかけに麻衣子の幼なじみの木村隼人に何度か接触している。
「夏に隼人から莉央の生い立ちを聞かれただけで、後は何も。莉央のことがあって隼人と美月ちゃんが喧嘩したことは聞いてるよ。その後は仲良くやってるみたい」
「そっか。……こんなこと、木村さんが好きだった麻衣子に聞くことじゃないけど、莉央って木村さんに恋したと思う?」
なぎさに聞かれて麻衣子は小首を傾げた。麻衣子は卵に包まれたチキンライスを口に運び、考えながら言葉を紡ぐ。
「どうだろう。隼人と莉央が一緒にいるところを見ていないから何とも言えないなぁ。でも莉央が隼人を好きになることはあるかも」
「木村さんイケメンだもん。麻衣子が好きだった人って情報がなかったら、私だってポーッとなってたかもしれない。芸能人を見る感覚みたいなもの?」
「あははっ。あいつは無駄に顔はいいからね。顔だけじゃなくて、隼人って偏見がない人なの。その人の過去や立場がどうであれ、自分の目で見てその人を判断するって言うのかな。莉央の過去や立場なんて隼人には関係ないのよね」
幼なじみの麻衣子だからこその意見だろう。
「だけど私は美月ちゃんを傷付けて欲しくないから。隼人と莉央のことは応援できないし、莉央には……罪を償って欲しい」
「うん。私も同じ気持ち」
莉央への想いは二人とも同じ。彼女が犯罪者となった今でも、変わらず大切な友人だと思っている。