早河シリーズ第六幕【砂時計】
「明日から京都だよね」
「こんな気が滅入った状態で行かなきゃいけないけど、仕事だからね。でも行きたくないなぁ」
「気晴らしにちょうどいいじゃない。早河さんのことは京都から戻ってから考えればいいし、楽しんで来なよ。出来上がった記事、読むの楽しみにしてる」

 食事を終えてレジで会計を済ませている時に店内に男が入ってきた。先に会計を終えてなぎさを待っていた麻衣子が男に気付いた。

「神明先生。お疲れ様です」
『やぁ、加藤先生。お疲れ様です。奇遇ですね』

 神明大輔《しんめい だいすけ》は啓徳大学病院の精神科に勤務する臨床心理士、麻衣子の同僚だ。

「先生も今日はこちらでお食事を?」
『ええ。ここのオムライス美味しいですよね。病院からも近いですし、気に入ってしまって。加藤先生はお帰りですか?』
「はい。私は友達と……」

会計を済ませたなぎさがやって来て、麻衣子と神明を交互に見る。神明は柔和な微笑でなぎさに会釈して、店員の案内で店の奥に進んだ。彼はひとりだった。

 店を出た二人は夜の外苑東通りに立ち尽くす。北方向に進めば四谷三丁目駅に、南方向に進めば麻衣子が利用するJR中央線の信濃町駅がある。

「さっきの人は神明先生。今年からうちのチームに入った非常勤の臨床心理士なの」
「感じのいい人だね。かっこいいし、モテそうな雰囲気」
「うん。同僚や患者さんにも人気があるよ。でも私はちょっと苦手」
「なんで?」
「なんとなく。きっと、いつも笑顔でイイ人過ぎるから苦手なのかも」

 夜風が冷たかった。まだ別れるには話足りない彼女達は近くのコンビニに避難する。
コンビニは風避けにはちょうどよく、店内は暖かい。化粧品や雑誌のコーナーを見て回りつつ、二人は話を続けた。

「イイ人っていいと思うよ?」
「もちろん明らかに悪い人よりはいいよ。だけどさ、誰かにとってはイイ人でも自分にとっては悪い人の場合もあるでしょ?」
「ああ、それはなんとなくわかる」

 誰かにとっての“イイ人”は誰かにとっての“ワルイ人”かもしれない。
あの人はイイ人だと誰もが評価する人を苦手だと感じてしまうのも、悪いことではない。その逆もある。

コンビニに寄ると手ぶらでは出られない魔法でもあるようで、なぎさは明日の朝食用に手軽に食べられるパンとヨーグルトを、麻衣子はホットコーヒーを購入して二人は外苑東通りを北と南で別れた。
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