早河シリーズ第六幕【砂時計】
    ──京都──

 二葉書房の取材班が宿泊するホテルは京都の繁華街、四条にある格式がありながらもリーズナブルな値段のカップルに人気の高いホテルだ。

 ロビーを行き交う人々も若い男女や女性同士の客が目立つ。戸田美奈子はソファーに座って携帯電話を耳に当てていた。

{お母さん、お土産よろしくぅー}

電話口から聞こえる10歳になる娘の声に口元が緩む。

「お土産ね、ちゃんと買ってくるから。お祖母ちゃんの言うことよく聞くのよ。……うん、はいはい。じゃあね、おやすみ」

 娘との通話を終えた美奈子は同じフロアの土産物売り場に入る。娘への土産を購入するために売り場を物色していた彼女は見知った顔を見つけた。

「あれぇ? 金子くん、ひとり? 沢口くんは?」

 土産物の並ぶ棚の前で、手持ちぶさたに立っているのは部下の金子拓哉だ。

『沢口さんは京都の女を引っかけに行くんだって意気込んで出掛けて行きましたよ』
「まったくあいつは……。仕事で来てるの忘れてないか?」

土産物売り場の専用カゴに美奈子は次々と菓子箱を入れていく。金子の目の前にあるつぶ餡の八ツ橋もカゴに入った。

「金子くんは何か買うの?」
『僕は特には……。明日のスケジュールの確認も終わったのでブラついていただけです』
「沢口くんみたいにナンパしに行かないの? 金子くんなら余裕で女の子何人か釣れるわよ」
『本命じゃない女に好かれても嬉しくありませんよ』

 スラックスのポケットに両手を押し込んだ彼は澄ました顔をしている。飄々《ひょうひょう》とした金子の澄まし顔を崩したい悪戯心が美奈子に芽生えた。

「クールだねぇ。金子くんさ、なぎさちゃんのこと好きでしょ?」

美奈子の思惑通りに彼の顔が狼狽の色を見せる。本命の女の話題に関してはわかりやすい男だ。

『どうして……』
「沢口くんにだってバレバレよ。それに、岩下さんの代役に社員じゃないなぎさちゃんを推したのは金子くんだったって編集長に聞いたよ」

美奈子の含み笑いに金子は気まずそうに顔をそらした。

『編集長も口が軽いなぁ。そのこと香道さんには黙っていてくださいよ。彼女には編集長が無理やり頼み込んだってことにしてあるんですから』
「わかってるって。で、告白はしたの?」
『しましたけど……好きな人がいるって言われてあっさり振られました』

 いつの間にか美奈子のカゴには沢山の土産物の箱や缶が積まれている。金子も小さめの菓子缶をひとつ取って眺めた。
中には紅茶と抹茶味の飴が入っている。

「ふぅん。好きな人ね。でもそれって彼氏じゃないんでしょ?」
『彼氏じゃないみたいです。香道さんの片想いっぽいですね』
「それなのに諦めるの?」
『諦めたくはないですけど……』

飴の缶を元の場所に戻そうとした金子の手から美奈子が缶を取り上げて自分のカゴに入れた。まだ土産物を買う気らしい。

「向こうに中庭の見えるガラス張りの回廊があるでしょ? チェックインしてすぐに沢口くんが撮影してた所。さっきそこになぎさちゃんがいたよ。今もいるかはわからないけどねー」
『……もしかして、けしかけてます?』
「ふふっ。どうでしょう? ま、頑張って」

金子の胸元を軽く叩いた美奈子は土産物で溢れた買い物カゴを提げてレジの列に並んだ。
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