Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

シャウラはどこに?

 義母は手に封筒を持って、家にやってきた。正直、シャウラが突然いなくなったショックで動顛しているわけだが、そこに義母が来たことでさらに混乱が生じた。
「フォマルハウトさん、シャウラはどこ!?」
 家にあがり込んで大声を張り上げる。50代半ばではあるが顔立ちが整っていて、若い頃は言い寄る男がさぞ多かっただろうと思える。
 しかし、フォマルハウトはこの義母が苦手だった。いつも娘のシャウラに対して「ホント、ダメな子ね、家事もろくにできないなんて」「ミアプラがこんなに泣くのは、あなたの育て方が悪いんじゃないの?」と、ちくちくと心を刺すような言葉を吐いてくる。シャウラが鬼嫁のようになっているのは、もしかしたらこの義母の影響があるのでは……と思うことがたびたびある。
 が、今はそんなことを考えている場合ではない。
「シャウラがいないんですよ! ついさっき出張から帰ったら、この置き手紙があって……」
 フォマルハウトはその手紙を見せた。義母はそれをひったくると、わなわなと手を震わせる。
「私の家のポストにも、こんな手紙があったのよ。あの子、一体何を考えているのかしら」
 義母が持っていた封筒を受け取ると、中に入っていた手紙を抜き取って広げる。

 ――私は赤星党に入って世直しをします。ミアプラとフォマルハウトをお願いします。

 何だって!? 子育てに嫌気がさして一時的に家出をしたのではない――シャウラは本気で家を出て行ったようだ。
「フォマルハウトさん、この赤星党って何かしら?」
 義母の声で我にかえる。「聞いたことがありますね…」と言いながら記憶をたどると――最近できた医療関係の非営利組織に、そんな名前があったことを思い出した。フォマルハウト自身は取材したことはなかったが、仲間内でコンタクトをとった人間がいるかもしれない。明日、出勤したら探してみよう。
 とりあえずミアプラにごはんを食べさせて、風呂に入れて寝かしつけをしなければ――しかし、義母は「じゃあ、がんばってね。フォマルハウトさん」と言い残して帰ってしまった。手伝ってくれると思ったが、考えが甘かったか……。
文字通りのワンオペ育児を、数時間ほどだがやってみた。普段、シャウラはこんな大変なことをしていたのか……と思うと、今更ながら頭が下がる思いだった。

 翌朝。ミアプラを起こして朝ごはんを食べさせ、着替えをさせて家を出た。とりあえず城に登庁して上司やアルデバラン王に報告しなければ――。
娘を連れて出勤した僕を見て、上司は唖然としていた。
「一体、何があったんだよ?」
 僕が聞きたいくらいだ。が、いきなりこの状況になってしまったので、ミアプラを放っておくこともできず連れてくることにしたのだ。ミアプラを抱えながら小一時間ほど報告書を清書していた。〇歳児が動くと手元が狂い、上手く書けない。こんな状況で仕事なんてできるのか…と思っていたら、上司がどこからか戻ってきた。
「フォマルハウト、この報告書は誰かに清書させるから娘さんを託児所に預けてこい。話をつけてきた。その後に王に謁見して、取材の一部始終をお伝えしろ」

 早速、王に謁見して報告した。船から警備兵が投げ出されて行方不明になったこと。紫微垣のことを調べていたらその紫微垣の霊体と出会い、成り行きで修行をするはめになったこと。自然災害を鎮める秘宝・ポラリスが北辰の祠からなくなっていたこと。そして、自分が紫微垣を引き継ぐことになったこと――。
「そうか、ご苦労だった」
 アルデバラン王はそれだけ言ってうなずいた。しばらくあご髭に手を当てていた王は、再び口を開く。
「ところでそなた、奥方が突然行方知れずになったそうだな」
「はっ、たいへん恥ずかしい限りで……」
 フォマルハウトは頭を下げる。まったく、本当に恥ずかしかった。ミアプラを託児所に突然預けたことから、城じゅうに噂が広まったのだろう。
「いや、難儀して大変であるな。娘さんは大丈夫かな?」
「はい、託児所で世話してもらっていますので。これも陛下が城の役人のために託児所を作ってくださったおかげ……」
「ぱうぱーー」
 子供の声が聞こえる。その声の主は、突然謁見の間に入ってきた。
「ミ、ミアプラ!?」
 こら! 陛下に謁見中だぞ!! そう叫びたかったが、止める暇もなくミアプラはてっててーとやってきて、フォマルハウトに抱きつく。
「ぱぱー」
 顔を引きつらせるフォマルハウト。おいおい、仕事中なんだよ、勘弁してくれ……。しかし、それを見ていたアルデバラン王は微笑みを向ける。
「ははは、子供はかわいいのう。どれお嬢ちゃん、おじさんのところにおいで」
 アルデバランが手を広げて笑顔を見せると、ミアプラはきょとんと不思議そうに首をかしげ、やがて満面の笑みで駆け寄り、王に抱きついた。そのまま、アルデバランはミアプラを抱き上げる。
「おうおう、美人ちゃんだのう。お母さん似なのかな?」
 そうなのだ、ミアプラはシャウラによく似ている。目つきがやや猫目なのだがかわいい女の子なのである。
「フォマルハウトよ、今は大変かもしれないが励んでくれ。この都だけでなく、この子のためにもな……」
「はっ…」
 恐縮しながらフォマルハウトは頭を下げる。そう、自分がこの仕事をするのは王のため都の民のためであり、未来を担うこの子のためでもある。シャウラがいないとはいっても、いい加減な仕事をするわけにはいかない――。
 顔を上げると、ミアプラがアルデバランの頬を引っ張っている。思わず吹き出しそうになるが、王が真面目な表情なのでなんとか堪えた。……そのギャップがまたツボに入り、口角がゆがむのをがまんできずに下を向く。
 が、その時である。突然、

 ドオン

 と、外に轟音が響いた。
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