Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―
聞き取り③ シャウラとアンタレス
赤星党の結成は、先の薬が開発されて間もないころだった。アンタレスはこの薬をただ同然で、蟹の目町で配り始める。さらに中つ都や東の都にも出向き、屋台を引いて配るようになった。もちろん違法行為だが、配る場所はスラム街であったため、警備兵の目も届きにくかったようだ。
そんな中、薬を服用した者たちが妖星疫にかからなくなったことから、「ぜひ多くの人に広めよう!」との機運が高まり、アンタレスは小さな集会所で講演をすることになった。
「貧しい人にも適切な医療をほどこす――これが赤星党の使命だ」
アクラブはどうだと言わんばかりにのけぞって言った。フォマルハウトは「ほう、そういうことだったのか」と相づちを打つ。いい気になって話し始めたら、できるだけ話させる。その取材から、掘り出し物のような情報が得られるかもしれないのだ。
そして、話はシャウラが講演に初めて参加した時に進んだ――。
シャウラは、娘のミアプラを連れて講演に参加した。妖星疫が蔓延する中ではなかなかの人数で、皆、熱心にアンタレスの演説を聴いている。シャウラは出口付近の席に座った。ミアプラが泣き出した時、すぐに会場の外に出られるようにと配慮したためだ。幸い、ミアプラはベビーカーですやすやと寝ている。
アンタレスの話は引きつけられるものがあった。妖星疫はそもそも人為的に広められたものであり、その根源は実は東の都のアルデバラン王にある。星の大地の医療機関を事実上掌握している東の都が、人為的に病原菌をばらまいて民に医療費を出させるために仕組まれた。しかし、その妖星疫の特効薬を自分が開発し、治るようになった――。
ここまで聞いて、シャウラははたと気付く。
(あれ? あの人、以前大市場で会ったフォマルハウトの同僚じゃないかしら?)
城の役人がなぜここに? それに、アルデバラン王を批判するような演説をしている? どういうことなのかしら――?
そんな疑問をつらつら考えていると、ミアプラが目を覚ました。
「ふええん、ふええん」
「ちょ、ミアプラ、静かにして」
焦ったシャウラは、ミアプラを抱きかかえる。もっと話を聞いていたいけど、泣き出したら他の聴衆に迷惑だし、会場の外に出るしかない…すると、壇上にいたアンタレスが席のフロアに降りて、シャウラに近寄ってくる。
シャウラは青い顔で「す、すみません」と謝った。
「え? 何が?」
アンタレスはきょとんとしている。
「娘が泣き出してお話のじゃまをしてしまいましたよね…」
恐縮して何度も頭を下げるシャウラ。するとアンタレスは「心配しないで」とシャウラの髪を優しくなでた。
「皆さん、ここに赤ちゃんがいます! 元気に泣いている赤ちゃんです! 普通の講演会なら出て行けと言われるでしょう。しかし、私は違います!」
アンタレスは両手を広げて叫ぶ。
「赤ちゃんは泣くものです。私は、赤ちゃんが泣くことを許せる社会を作りたい! しかし、今の時代は子育てがしにくい! 風邪をひいた子供を診ることがあるのですが、決まって連れてくるのは母親だ! 父親は育児をしないか、もしくはさせてもらえないかなのです!」
さらに、アンタレスはミアプラの頭を優しくなでる。すると、ミアプラが泣き止んだ。
「この子は、本当は父親とも一緒に来たかったでしょう! それができないのも、この星の大地の社会が、子育てをないがしろにする仕組みだからです!」
すると聴衆から「そうだそうだ!」「すてき、もっと言って!!」という声が上がった。
「皆さんと一緒に、よりよい社会を作りたい! 私は真剣にそう思います!!」
アンタレスが両手を聴衆に向けて広げると、一斉に拍手が鳴った。
「……」
「どうした?」
固まっているフォマルハウトを見て、アクラブが尋ねる。
「医療の無償化から社会革命を宣言するって……しかも子育てしやすい社会?」
話が飛躍しすぎだろう、というか行き当たりばったりの印象が強い。アンタレスのやつ、何考えているんだ? しかし、アクラブは意に介さず続けた。
講演会後、シャウラはアンタレスのもとに駆け寄った。アンタレスは聴衆の握手などに応じていて、1時間ほどしてやっと一段落したのだ。
「あの…先ほどはありがとうございました。娘を生んでから、子育てのしにくさを感じていたので、あの言葉…とても感動しました」
するとアンタレスはにこやかに返した。
「お母さん、毎日の育児お疲れさまです。次世代を担う子供を育てることは、尊い仕事です。なのに社会のお偉方は分かっていない。残念なことですよ」
するとシャウラの目に涙が溢れてきた。
「うれしい…夫にも社会にも…子供は母親が育てて当然みたいに思われていたから…」
アンタレスは、再びシャウラの頭をなでた。
「よかったら、次の講演会にも来てください。一緒に社会を変えていきましょう」
シャウラは両手で目を覆いながら、こくんとうなずいた。
「それからだ、その女がアンタレスの講演にいつも来るようになったのは」
シャウラは、はじめこそ1人の信奉者だったのだろう。しかし、繰り返し参加し、アンタレスと懇意にする度に特別な感情になったのだ。ある時、アクラブは見てしまったのだ。
シャウラがアンタレスの控え室にいた。何をしているのかと思っていたら、アンタレスがシャウラを抱き寄せて口づけしたのだ。見てはいけないものを見た、と思ってとっさに物陰に隠れた。かすかに2人の会話が聞こえる。
「アンタレス…あなたを愛している」
「シャウラ、僕もだよ」
「夫がいるけど、もうあなたへの想いを止められない。私の心も体も捧げるわ。私をあなたの仲間に入れて」
「…いいのかい? フォマルハウトを捨てて僕を選んでくれるのかい?」
すると、シャウラは恐ろしいことを言い放った。
そんな中、薬を服用した者たちが妖星疫にかからなくなったことから、「ぜひ多くの人に広めよう!」との機運が高まり、アンタレスは小さな集会所で講演をすることになった。
「貧しい人にも適切な医療をほどこす――これが赤星党の使命だ」
アクラブはどうだと言わんばかりにのけぞって言った。フォマルハウトは「ほう、そういうことだったのか」と相づちを打つ。いい気になって話し始めたら、できるだけ話させる。その取材から、掘り出し物のような情報が得られるかもしれないのだ。
そして、話はシャウラが講演に初めて参加した時に進んだ――。
シャウラは、娘のミアプラを連れて講演に参加した。妖星疫が蔓延する中ではなかなかの人数で、皆、熱心にアンタレスの演説を聴いている。シャウラは出口付近の席に座った。ミアプラが泣き出した時、すぐに会場の外に出られるようにと配慮したためだ。幸い、ミアプラはベビーカーですやすやと寝ている。
アンタレスの話は引きつけられるものがあった。妖星疫はそもそも人為的に広められたものであり、その根源は実は東の都のアルデバラン王にある。星の大地の医療機関を事実上掌握している東の都が、人為的に病原菌をばらまいて民に医療費を出させるために仕組まれた。しかし、その妖星疫の特効薬を自分が開発し、治るようになった――。
ここまで聞いて、シャウラははたと気付く。
(あれ? あの人、以前大市場で会ったフォマルハウトの同僚じゃないかしら?)
城の役人がなぜここに? それに、アルデバラン王を批判するような演説をしている? どういうことなのかしら――?
そんな疑問をつらつら考えていると、ミアプラが目を覚ました。
「ふええん、ふええん」
「ちょ、ミアプラ、静かにして」
焦ったシャウラは、ミアプラを抱きかかえる。もっと話を聞いていたいけど、泣き出したら他の聴衆に迷惑だし、会場の外に出るしかない…すると、壇上にいたアンタレスが席のフロアに降りて、シャウラに近寄ってくる。
シャウラは青い顔で「す、すみません」と謝った。
「え? 何が?」
アンタレスはきょとんとしている。
「娘が泣き出してお話のじゃまをしてしまいましたよね…」
恐縮して何度も頭を下げるシャウラ。するとアンタレスは「心配しないで」とシャウラの髪を優しくなでた。
「皆さん、ここに赤ちゃんがいます! 元気に泣いている赤ちゃんです! 普通の講演会なら出て行けと言われるでしょう。しかし、私は違います!」
アンタレスは両手を広げて叫ぶ。
「赤ちゃんは泣くものです。私は、赤ちゃんが泣くことを許せる社会を作りたい! しかし、今の時代は子育てがしにくい! 風邪をひいた子供を診ることがあるのですが、決まって連れてくるのは母親だ! 父親は育児をしないか、もしくはさせてもらえないかなのです!」
さらに、アンタレスはミアプラの頭を優しくなでる。すると、ミアプラが泣き止んだ。
「この子は、本当は父親とも一緒に来たかったでしょう! それができないのも、この星の大地の社会が、子育てをないがしろにする仕組みだからです!」
すると聴衆から「そうだそうだ!」「すてき、もっと言って!!」という声が上がった。
「皆さんと一緒に、よりよい社会を作りたい! 私は真剣にそう思います!!」
アンタレスが両手を聴衆に向けて広げると、一斉に拍手が鳴った。
「……」
「どうした?」
固まっているフォマルハウトを見て、アクラブが尋ねる。
「医療の無償化から社会革命を宣言するって……しかも子育てしやすい社会?」
話が飛躍しすぎだろう、というか行き当たりばったりの印象が強い。アンタレスのやつ、何考えているんだ? しかし、アクラブは意に介さず続けた。
講演会後、シャウラはアンタレスのもとに駆け寄った。アンタレスは聴衆の握手などに応じていて、1時間ほどしてやっと一段落したのだ。
「あの…先ほどはありがとうございました。娘を生んでから、子育てのしにくさを感じていたので、あの言葉…とても感動しました」
するとアンタレスはにこやかに返した。
「お母さん、毎日の育児お疲れさまです。次世代を担う子供を育てることは、尊い仕事です。なのに社会のお偉方は分かっていない。残念なことですよ」
するとシャウラの目に涙が溢れてきた。
「うれしい…夫にも社会にも…子供は母親が育てて当然みたいに思われていたから…」
アンタレスは、再びシャウラの頭をなでた。
「よかったら、次の講演会にも来てください。一緒に社会を変えていきましょう」
シャウラは両手で目を覆いながら、こくんとうなずいた。
「それからだ、その女がアンタレスの講演にいつも来るようになったのは」
シャウラは、はじめこそ1人の信奉者だったのだろう。しかし、繰り返し参加し、アンタレスと懇意にする度に特別な感情になったのだ。ある時、アクラブは見てしまったのだ。
シャウラがアンタレスの控え室にいた。何をしているのかと思っていたら、アンタレスがシャウラを抱き寄せて口づけしたのだ。見てはいけないものを見た、と思ってとっさに物陰に隠れた。かすかに2人の会話が聞こえる。
「アンタレス…あなたを愛している」
「シャウラ、僕もだよ」
「夫がいるけど、もうあなたへの想いを止められない。私の心も体も捧げるわ。私をあなたの仲間に入れて」
「…いいのかい? フォマルハウトを捨てて僕を選んでくれるのかい?」
すると、シャウラは恐ろしいことを言い放った。