Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―
聞き取り④ 禁断の愛
「いいわ。あんな男、もう夫としても見られないから。あなたの理想実現の邪魔になるなら、私が殺すから」
「素晴らしい。そこまでの覚悟ができているなら一緒に来てくれ。だけど、娘はどうするの? 革命活動の最中、一緒には連れていけないよ」
「夫が出張から帰ってくる日に家を出るわ。彼の帰宅1時間前に出れば、ミアプラも大丈夫よ。革命が成功したら、夫から娘を奪還する。そしてアンタレス、あなたに新しい父親になってもらうわ」
その日の講演が終わった夜、アンタレスとシャウラはどこかに消えた。
「……」
フォマルハウトは言葉を失っていた。アクラブにばれないよう平静を装っているが、内心はシャウラの身勝手さで、はらわたが煮えたぎる思いだった。
(ということは、あの日、ミアプラは1時間放置されていたのか)
ネグレクトという立派な幼児虐待である。が、シャウラはそんな判断もつかないほどアンタレスに惚れ込んでいるのだろう。夫である自分だけならともかく、0歳児を見捨てていくなど正気ではない。もっとも、育児を投げ出したくなる人はいる。しかし、それでも一線を越える前に踏みとどまって、周りに相談するなりのアクションを起こすものだ。シャウラの場合はそれができず、最悪の行動に出てしまったのだ。
自分もカペラと不適切な関係になりかけたが、寸前で思いとどまった。それなのに……いや、自分の行為を正当化するのはやめよう。
「その女、今も赤星党にいるんだよな?」
「ああ、アンタレスと懇ろさあ」
アクラブは両手を挙げる。はて? とフォマルハウトの目が動く。アクラブの表情からはシャウラを歓迎している様子が見られない。
「アクラブ、あんたら他のメンバーはシャウラをどう思っているんだ?」
「ああ? この女、大丈夫かなって感じだよ。家族をほっぽり出すことはもちろん、アンタレスに取り入って愛人になったのも、他の連中の嫉妬を買っているよ」
「へえー」
フォマルハウトはメモの手を止める。妻の存在が、赤星党の結束を乱す爆弾になる可能性がある。ということは、彼女を弱点として突けば崩せるかもしれない。
「さて、あと聞くことは……」
フォマルハウトは帳面を繰りながら次の質問を考えていると――アクラブが突然うつむき始めた。
「おい、どうした? 眠いのか? まだ聞きたいことがあるんだがもう少しがんばって……」
直後、異変が起きた。アクラブが胸を抑えて震え始めたのである。さらにいすからガタッと音を立てて床に転げ、巨体をのたうち回らせた。
「ア、ガガ、グガガガガ……!!」
「おい、しっかりしろ、どうした!?」
今度は吐血した。部屋の外からその様子を聞いていたルクバトが「何だ!? どうした!?」と部屋に入ってきた。入れ違いにフォマルハウトは「待っていろ!!」と部屋を飛び出し、廊下でばったりとカペラと会った。
「ハウト? どうしたの?」
「カペラ、力を貸してくれ! アクラブが吐血した!!」
「え!?」
カペラはすぐに取材室に駆けつけた。ルクバトがアクラブのそばに寄り、「しっかりしろ!!」と背中を叩いている。「どいて!」とカペラが叫び、アクラブの体を仰向けにした。「心肺が停止してる! 心臓マッサージ!」と横に座り、両手を胸に当ててマッサージを始めた。5分ほど施してまぶたを強引に開く。
「…だめ、死んでいるわ」
なんてことだ、情報を聞き出す貴重な存在だったのに。
アクラブの遺体から若干の血液と細胞が抜き取られた後、すぐに火葬された。妖星疫の蔓延は下火になっているが、もしかしたら未知の病原菌にやられたということも考えられる。そのため、フォマルハウト、ルクバト、カペラの三人は「濃厚接触」と見なされ、一週間自宅待機となった。もっとも、カペラはフォマルハウトの家に泊まることにしたのだが。
「検査の結果が出たわ。妖星疫の菌も未知の病原菌もなかったって」
「1週間かけて出なかったのなら、信憑性は高いな」
2人とも外出ができず、食料などは宅配を使ったり、知人に届けてもらったりしていた。
「原因はおそらく、特効薬が切れたことよ」
「え?」
妖星疫の特効薬は飲み続けなければならない性質のものらしい。だが、捕縛されたことで飲むことができなくなり、副作用で死に到ったのではないか、というものである。発作が起きるまでは健康そのもので、フォマルハウトの聞き取りに答えていたのである。
まるで麻薬のような働きをしていたのだ。
「何にしても、これで明日から外出できるわ」
カペラはほっとしていたが、それで済む気がしなかった。そして数日後。事態は急転することになる。
「素晴らしい。そこまでの覚悟ができているなら一緒に来てくれ。だけど、娘はどうするの? 革命活動の最中、一緒には連れていけないよ」
「夫が出張から帰ってくる日に家を出るわ。彼の帰宅1時間前に出れば、ミアプラも大丈夫よ。革命が成功したら、夫から娘を奪還する。そしてアンタレス、あなたに新しい父親になってもらうわ」
その日の講演が終わった夜、アンタレスとシャウラはどこかに消えた。
「……」
フォマルハウトは言葉を失っていた。アクラブにばれないよう平静を装っているが、内心はシャウラの身勝手さで、はらわたが煮えたぎる思いだった。
(ということは、あの日、ミアプラは1時間放置されていたのか)
ネグレクトという立派な幼児虐待である。が、シャウラはそんな判断もつかないほどアンタレスに惚れ込んでいるのだろう。夫である自分だけならともかく、0歳児を見捨てていくなど正気ではない。もっとも、育児を投げ出したくなる人はいる。しかし、それでも一線を越える前に踏みとどまって、周りに相談するなりのアクションを起こすものだ。シャウラの場合はそれができず、最悪の行動に出てしまったのだ。
自分もカペラと不適切な関係になりかけたが、寸前で思いとどまった。それなのに……いや、自分の行為を正当化するのはやめよう。
「その女、今も赤星党にいるんだよな?」
「ああ、アンタレスと懇ろさあ」
アクラブは両手を挙げる。はて? とフォマルハウトの目が動く。アクラブの表情からはシャウラを歓迎している様子が見られない。
「アクラブ、あんたら他のメンバーはシャウラをどう思っているんだ?」
「ああ? この女、大丈夫かなって感じだよ。家族をほっぽり出すことはもちろん、アンタレスに取り入って愛人になったのも、他の連中の嫉妬を買っているよ」
「へえー」
フォマルハウトはメモの手を止める。妻の存在が、赤星党の結束を乱す爆弾になる可能性がある。ということは、彼女を弱点として突けば崩せるかもしれない。
「さて、あと聞くことは……」
フォマルハウトは帳面を繰りながら次の質問を考えていると――アクラブが突然うつむき始めた。
「おい、どうした? 眠いのか? まだ聞きたいことがあるんだがもう少しがんばって……」
直後、異変が起きた。アクラブが胸を抑えて震え始めたのである。さらにいすからガタッと音を立てて床に転げ、巨体をのたうち回らせた。
「ア、ガガ、グガガガガ……!!」
「おい、しっかりしろ、どうした!?」
今度は吐血した。部屋の外からその様子を聞いていたルクバトが「何だ!? どうした!?」と部屋に入ってきた。入れ違いにフォマルハウトは「待っていろ!!」と部屋を飛び出し、廊下でばったりとカペラと会った。
「ハウト? どうしたの?」
「カペラ、力を貸してくれ! アクラブが吐血した!!」
「え!?」
カペラはすぐに取材室に駆けつけた。ルクバトがアクラブのそばに寄り、「しっかりしろ!!」と背中を叩いている。「どいて!」とカペラが叫び、アクラブの体を仰向けにした。「心肺が停止してる! 心臓マッサージ!」と横に座り、両手を胸に当ててマッサージを始めた。5分ほど施してまぶたを強引に開く。
「…だめ、死んでいるわ」
なんてことだ、情報を聞き出す貴重な存在だったのに。
アクラブの遺体から若干の血液と細胞が抜き取られた後、すぐに火葬された。妖星疫の蔓延は下火になっているが、もしかしたら未知の病原菌にやられたということも考えられる。そのため、フォマルハウト、ルクバト、カペラの三人は「濃厚接触」と見なされ、一週間自宅待機となった。もっとも、カペラはフォマルハウトの家に泊まることにしたのだが。
「検査の結果が出たわ。妖星疫の菌も未知の病原菌もなかったって」
「1週間かけて出なかったのなら、信憑性は高いな」
2人とも外出ができず、食料などは宅配を使ったり、知人に届けてもらったりしていた。
「原因はおそらく、特効薬が切れたことよ」
「え?」
妖星疫の特効薬は飲み続けなければならない性質のものらしい。だが、捕縛されたことで飲むことができなくなり、副作用で死に到ったのではないか、というものである。発作が起きるまでは健康そのもので、フォマルハウトの聞き取りに答えていたのである。
まるで麻薬のような働きをしていたのだ。
「何にしても、これで明日から外出できるわ」
カペラはほっとしていたが、それで済む気がしなかった。そして数日後。事態は急転することになる。