Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

正攻法と奇襲

「聞け、俺にいい作戦がある」
 ルクバトはフォマルハウトと自分の部下数人をテントに集め、作戦を提案した。カペラをさらわれて蒼白になっているフォマルハウトに目をやったが、かまわず続ける。
 まずは現状の確認だ。赤星党は、爆弾、煙幕、薬物などを武器に抵抗している。立てこもっているのは籠城するのに適した館だ。向こうからは爆弾や煙幕を投げつけられ、こちらからは近寄るのが難しい。さらには、たった今人質を取られてしまった。
「それって、かなり不利な戦況ってことか?」
「まあ、そうだな。お前さんもだいぶ戦いのことが分かってきたじゃねえか」
 フォマルハウトの問いにしれっと答えるルクバト。いや、誰が見ても戦況不利なのは明白だろうが。
「だが、奴らのスキに付けいるチャンスはある」
 地図を指しながら、ルクバトが説明を続ける。北河荘は正面と左右が岩場で、大軍で突入しようにも狭い面積に一度に行ける人数は限られている。そこにまた爆弾を落とされてはひとたまりもない。背後は断崖絶壁で、ロッククライマーであっても潜入は難しそうだった。
「隊長、どうすればいいのですか?」
「そこでだ、フォマルハウトの出番だ」
「へ?」
 ルクバトに指名された当のフォマルハウトはきょとんとしている。
「お前さん、七星剣を使って建物の背後に回り込め。そこから潜入するんだ」
 ルクバトの構想は次のようなものだった。
 まず、フォマルハウトが七星剣の秘剣・錨星で崖に回り、そこからよじ登って北河荘に潜入する。その後、敵を一人一人殺害、もしくは戦闘不能にして、人数を削っていく。ある程度時間がたったら、建物の正面と左右にあらかじめ配置した兵士たちが一斉に突入し、内部を制圧する。
「てことは、背後からは僕1人でやらなきゃいけないってことか?」
 ルクバトは無言でうなずく。「無茶言うなよ! 僕は文官…」というフォマルハウトの言葉を「その台詞はもういいから」と遮り、ルクバトは続けた。
「今、時刻は午後6時だ。もうすぐ日没だろう。建物の内部もある程度暗くなる。そうなったら、1人で戦う方が有利なんだ」
 大人数の方は、暗がりの中で敵味方を見分けるのが難しくなる。逆に1人だったら、人質を除けば自分以外は全員敵となるので、ぶち当たった者を片っ端から倒していけばいい。
「俺たち兵士が正攻法で行くなら、フォマルハウトが奇襲を仕掛けるということさ」
 紫微垣の力を今こそ見せてくれ、とルクバトに肩を叩かれた。が、正直言って自信がなかった。紫微垣になったばかりというだけでなく、戦いそのものに慣れていない。
「隊長、我々が突入する時刻も決めておいた方がよいでしょうか?」
「当然だ。今、午後6時だから…3時間後、つまり午後9時に突入する。フォマルハウトはそれまでに敵の戦力を削ってくれ。俺たちの突入は静かにやるが、交戦し始めたら派手にいくからよろしく」
 フォマルハウトは仕方なく肚を決めた。こうなったら、やるしかない。

 フォマルハウトは、若い兵1人と共に町の岬に来た。左には北河荘の裏面が見える。距離にして200mほど。ここからあの崖に貼り付き、潜入するのだ。
「はてさて、大丈夫か…」
 いざとなると及び腰になる。が、若い兵士が言った。
「何言っているんですか! この星の大地を守るためですよ! 隊長を信じてください!!」
 目が輝いている。年は17歳くらいだろうか。自分もこの年頃は、純粋に「世界を良くしてみる!」と息巻いていたなあ。記者になり、いろいろな事件やテーマを取材して、その理想実現が並大抵の努力では不可能ということに気付き、それでも仕事に邁進してきた。紫微垣になり、その理想実現に近づいたかと思ったが、今度は自分の家庭がボロボロになった。いや、すでに破綻していた姿がはっきりと現れただけかもしれない。
 自分の家庭が安定しないのに、世界を安定させられるのか…とつらつら考えていたが、頭をふってその考えを払った。今やるべきは、北河荘の制圧とカペラの救出、そしてポラリスの奪還だ。
 フォマルハウトは七星剣を構えた。
「秘剣・錨星!」
 剣がアンカー状になって建物の裏の突き出た岩に飛んでいく。そして、グルグルと巻き付いた。
「じゃあ、行ってくる」
 そう言い残すと、フォマルハウトは岬の地面を蹴って宙に舞った。その体は錨の鎖に運ばれて岩場にたどり着き、そこからまた上に向けて発射した。運良く1階の窓の一つが開いていたので、フォマルハウトはそこから潜入することに成功した。
 その一部始終を見届けた例の兵士は、ルクバトに報告するため戻っていった。

 時刻は現在、6時半。鎮圧隊の突入まであと2時間半――。
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