Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

魔人再び

 翌日。他の3人が休んでいる時、カノープスは一人でフォマルハウトの書斎にこもっていた。書斎から物音がしたため、カペラが「誰かいるの?」と聞いて入って来た。
「どうしたの、カノープス?」
「天漢癒の腕輪をもう一つ作りたいと思って」
「え?」
 天漢癒の腕輪は外傷を回復させるためにカペラが作った道具だ。
「一つあれば充分じゃないの?」
「いや、作るのは外傷用じゃなくて心の傷を癒やすものっす」
 今回の戦いでは、打撃よりもむしろ精神攻撃でひどい目に遭っている。それを回復させるような道具が必要と思ったのだ。
「腕輪、ありますか?」
「ええ」
 カペラはすっと天漢癒の腕輪を差し出した。金色に美しく輝いている。カノープスはその腕輪を魔方陣のようなものの上に置き、呪法の本にあった呪文を唱え始めた。すると、その腕輪がもう一つ――色違いの銀の腕輪が現れたのだ。
 カペラは目をみはった。あの本は、カペラとフォマルハウトが数年かけて作った天漢癒の腕輪の開発プロジェクトを書き写したものだ。フォマルハウトの筆力で理論立てて書かれていたから、読みやすかったとは思うが、腕輪をもう一つ――しかも別の種類のものを、こうもあっさりと作るとは……。
「準備はできました。明日、出発しますよ」

 次の日。一行は西の村に向けて出発した。ルートは東の都から中つ都に入り、中つ都を北西に進む。さらにそこから山道を分け入って行けば、西の村に到着する。
 最大の難関は中つ都から西の村に向かう道だ。道とは言っても整備がされておらず、途中には野生の獣やごろつきもいるらしい。身の安全が保障されないエリアだ。
 それでも彼らは進まなければならなかった。持ち物は、食料や水のほか、野営用のテント、武器の七星剣、天漢癒の腕輪二つである。
 東の都と中つ都は街道が栄えているため安全と思っていたが、すぐに敵が現れた。例の魔人である。全身が鎧というか甲冑のような出で立ちで、赤みがかった金色である。しかも白昼堂々と現れたので、通行人たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
 アヴィオールは七星剣を構えた。ミアプラも構えるが、まだ本調子ではなく表情がぼんやりしている。鎧の魔人は、全身から鎌の刃のようなものを飛ばしてくる。さらに、間合いを詰めてきたと思ったら、腕に仕込んだ斧や槍で攻撃してきた。アヴィオールとミアプラは避けるのが精一杯だったが、カノープスはため息をつきながら紙一重でかわしつつ、懐から赤い小さな星鏡を取り出し、七星剣の星鏡に当てた。すると、剣が熱くなり始め、灼熱の炎をまとう姿となった。
「一の秘剣・魚釣り星!」
 炎をまとった剣閃が敵に命中すると、鎧があっという間に溶けてなくなった。
「え…どういうこと?」
 カペラがぽかーんとしている。炎や水の魔人にはかなりてこずったのだ。しかもミモザがいる状態で。ところが一転、この金属の魔人はあっけなく撃破できた。
「あいつら、弱点があるみたいだ」
 カノープスは二日間、フォマルハウトの書物を読みあさっていた。そこに五行説の文献があり、火、水、金、木、土の五元素にはそれぞれ弱点となる要素がある。水は火を消し、火は金を溶かし、金は斧として木を切り倒し、木は土から養分を吸い上げ、土は水の流れをせき止めたり汚したりする。今、金属の魔人を炎で倒せたのは、金が火に弱いからということだ。
「火も水も、小さな星鏡を落としていったから、何か使えるんじゃないかとふんだんだが……こんな使い方があるとはな」
「それも文献に載っていたの?」とアヴィオール。
「いや、感覚でやってみた、運が良かっただけさ」
 カペラはまた驚いた。この少年、他の子とは違う。心身の強さ、頭の切れ具合、運の良さ……まるで神様に選ばれているような。
「あ、星鏡が…」
 先ほど使った星鏡が砕け散った。1回使うと終わりらしい。手元には火の星鏡が一つ、未使用の水が二つ。金属の魔人がいた所には、金色のものが二つあった。

 一行は、中つ都の入り口で木の姿をした魔人にでくわした。が、今度はアヴィオールが金の星鏡を使って二の秘剣・螺旋昴を放つと、剣閃がうねりをあげる竜巻のように代わり、あっという間に敵を切り刻んだ。残ったのは、二つの緑の星鏡である。
 中つ都で一泊し、町を抜けてしばらくすると、獣の姿をした土の魔人にでくわした。が、これもアヴィオールが木の星鏡を使って三の秘剣・三連突きを繰り出すと、穂先が木の根っこに代わり、魔人の体に刺さって何かを吸収するような動きをした。おそらく土中の養分を吸い取る動きだろう。あっという間に土の魔人を撃退し、茶色の星鏡二つを手に入れた。
 そんなこんなで歩を速め、東の都を出て翌日の夕方、一行は山中で野営をすることになった。
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