Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

冥界

「ど、どういうこと!?」
「言ったでしょ。ここは冥界。ここには基本的に死者が来るのよ」
「あ、あれ!」
 アヴィオールがふるえながら指さす方には――蝋燭には閉じ込められた小さな白骨があった。それも一つではない、二つ、三つ……よく見ると小さくなった人間の遺体が封じ込められている。
「じゃあ、私たちは死んだの!?」
「ふふっ、そうだと言いたいところだけど安心なさいな。精神だけが冥界に来ているのよ」
 あの暗黒十字の力か……そんなことを考えているとミアプラが叫んだ。
「お母さん…? お母さんなの!?」
 やや精神が錯乱したような声だ。
「あんた…ミアプラ?」
 シャウラは目を吊り上げた。
「ふん、あの男の面影があるわね。生まれた時は私に似ていてかわいかったのに…あいつの顔を思い出しそうで忌々しいわ」
「……!!」
 ミアプラは持っていた七星剣を取り落とした。そして、シャウラは――最も子供の心をえぐる一言を言い放った。
「あんたのせいで私の人生はめちゃくちゃになったのよ。あんたなんか生まなければよかったわ」
 ミアプラの膝が崩れ落ちる――カノープスにとって、仲の悪い彼女がショックを受けてもさして気にはならない。が、ヤングケアラーとして苦労してきた記憶が怒りをかきたてた。ドン、と地を蹴ったかと思うと、瞬時にシャウラに向けて三の秘剣・三連突きを見舞った。
 が、シャウラは難なくかわす。
「!!」
 渾身の力で繰り出した秘剣がかわされた! シャウラはカノープスとの間合いをとった。そして余裕の表情であざ笑う。
「ふん、ここでは死者の方が機敏に動けるのよ」
 シャウラはさらに、カペラをにらみつけた。
「あんたには夫を奪われた借りがあったわね。ふしだらなことをしておいて、のうのうと生きている姿に反吐が出るわ」
 カペラが固まる。ミアプラにも似たようなことを言われ、心に相当の傷を負っている。さらに、シャウラは「これを見なさい」と、そばにあった蝋燭を指す。そこには――フォマルハウトが閉じ込められていた。
「ハウト!」
「お父さん!」
 カペラ、アヴィオール、ミアプラが叫ぶ。と同時に、シャウラはその蝋燭を持ち上げ、乱暴に床に叩き付けた。フォマルハウトの体が、蝋燭と一緒に砕け散る。その拍子に、祭壇においてあった供物の料理が揺れ、床に落下した。
「いやあああ!!」
 カペラが叫んだ。大海嘯に続き、2度も夫の死を見せつけられたのだ。そうか、あの暗黒十字は黒い光を受けた者の縁者のうち、死者を見せていたぶるのだろう。おそらく、ここにいる全員の縁者といったらフォマルハウト師匠であり、残酷な姿を見せつけて精神崩壊させるというものだ。
「さて、そろそろ廃人になってもらおうかしら」
「おい…」
 突然、カノープスの体からすさまじい熱気が立ち上がった。怒りが殺気に変わった様子が分かるほどだ。
「許さんぞ…」
「な、何よ…?」
 シャウラが怯む。これまで優勢に攻撃を仕掛けてきた彼女が初めて怯えている。
「食い物を落とすんじゃねえよ!!」
 こんな状況でそこに激怒!? と他の3人が心の中で突っ込むが、次の瞬間、カノープスは三の秘剣・三連突きをシャウラに繰り出した。
「なっ!!!」
 何とかかわす。が、カノープスは瞬時に体勢を立て直して再度、三連突きを繰り出し、シャウラの体を貫いた。
「ぎゃあああ!!」
 シャウラは下品な悲鳴を上げながらとっさに間合いを取る。が、カノープスはすぐに一の秘剣・魚釣り星と六の秘剣・釣り鐘星を見舞った。息つく暇もない。
「ちょ、何でそんなに怒るのよ!!」
 叫ぶシャウラをよそに、3人は引きつった顔をした。こんな状況で、フォマルハウトが粉々にされたことでも仲間が傷ついたことでもなく、食べ物を粗末にすることに激昂するとは――カノープスはどこまでいってもカノープスだった。
 そしてついに、シャウラを壁際まで追い詰めた。
「とりあえず、ここから抜け出す方法を教えろ」
 するとシャウラは暗黒十字を取り出しながら不適に笑う。
「はっ、簡単なことよ。この十字架に脱出させるよう言えばいいのよ。でも、残念だけどできないわ」
 シャウラは暗黒十字をカノープスに向けた。
「あんたの魂にある死者への執着をあぶりだしてやるわよ」
 十字架から二つの黒い炎が放たれ、カノープスに直撃した。炎は火柱となって燃えさかる。
「カノープス!」
「はははっ! フォマルハウトの弟子みたいだけど、この炎の前にはなすすべもない…」
 と言い終わらないうちに、シャウラの体が吹き飛んだ。「がっ!」と、うめきながら石の壁に激突する。一の秘剣・魚釣り星が放たれたのだ。
「あいにくだが暗黒十字は効かない。ましてや、執着するような死者を知らない俺にはな!!」
 カノープスは三の秘剣・三連突きを仕掛けた。シャウラは体勢を整え、防御の構えをとる。しかし――真正面からの三連突きは腕で払いのけたが、左下からフックパンチのように繰り出された三連突きはかわせず直撃をくらった。
「な……?」
 穂先三つの跡がシャウラの体にくっきりと残る。血が流れないのは幽体だからだろうか?
「七星剣が1人1本と思ったら大間違いだ」
 カノープスが正面用に使った七星剣の星鏡は紫色、左下からの攻撃で使ったのは――えんじ色だった。
「それ、は…」
「亡き師・フォマルハウトの形見の七星剣だ。残念だったな、また同じ剣に負けるとは」
 冷徹な表情で言い放つと、二刀流の三連突きを連続で繰り出し、シャウラを蜂の巣にした。
「ぎゃああ!!」
 どう、と倒れる。その痙攣する手が、かつての娘に向けられた。
「ミアプラ…私を…ママを助けて…」
 娘を捨てた挙げ句、幽体になっても娘とその義母を廃人にしようとし、負けた今、助けを求めてくる――どこまでも身勝手なふるまいに、カノープスの怒りは頂点に達した。槍になったままの剣の穂先を下に向け、シャウラの脳天にグサッと突き刺した。
「っ!!」
 悲鳴を上げる暇もない。シャウラはピクピクと痙攣し、やがて動かなくなった。
「貴様に母親を名乗る資格などねえよ!」
 穂先を無造作に抜いてシャウラの頭を蹴り飛ばし、カノープスは十字架を拾い上げると鋭い声で命じた。
「さっさと俺たちをここから出せ! さもなくばねじりつぶす!!」
 その瞬間、蝋燭の空間が消え、元の場所に戻った。カノープスは全員の状態を確認する。顔色は悪いが…命は無事のようだ。
 カノープスは3人に「お前らさっさと寝ろ」と突き放すように言い放った。
「な、何よ、もっと優しく言えないの?」
 涙目のミアプラ。いつもならもっとかみついてくるところだが、ミモザをさらわれた上に実母の残酷な言動を見てしまい、心が折れてしまったのだ。
「…ミアプラ、カノープスの言うとおりにしましょう」とカペラ。
「今できることは、心身を休めて次の行動に備えることよ」
 ミアプラは、カペラの言葉に神経が逆なでさせられそうだった。が、言うことはもっともだ。こうして丸1日以上、3人は寝て休むこととなった。
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