Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

妊娠

 4人は少し広い場所にテントを張った。その後、食事の支度である。カノープスは手慣れた動きで飯ごう炊飯を始め、アヴィオールとカペラも手伝う。しばらくすると、おいしそうな米のたけるにおいがしてきた。その時、ミアプラが口を押さえてうずくまった。
「ミアプラ、どうしたの?」
 カペラが心配そうに尋ねる。
「気持ち悪い…吐き気がする」
 そう言うと、ミアプラは手で口を押さえて茂みに入る。カペラが付いていくと四つん這いになって吐しゃしていた。
「…まさか」
 ミアプラの背中をさすりながら、カペラはある考えに到る。吐き気が少し治まったような頃合いを見計らい、たき火を見ていたカノープスたちのもとに駆け寄った。
「カノープス、ミアプラを米の炊けるにおいから、できるだけ遠ざけるようにして」
「は?」
 きょとんとするカノープスだが、とりあえずうちわであおぎ、においがミアプラの方にいかないようにした。アヴィオールも訳が分からないながらも、言われたように手伝った。
 カペラは再度ミアプラのもとに駆け寄り、様子を見てまた戻ってきた。
「どうしたの、母さん?」
 アヴィオールが聞くと、カペラが頭を押さえながら言った。
「ミアプラはつわり…妊娠しているみたい。米の炊けるにおいは気持ち悪くするから、気をつけて」
「はあ!?」
 カノープスとアヴィオールは目を丸くした。

 ミアプラをテントに寝かせて、他の3人はテントの外に出る。そろそろ米が炊けた頃だ。そのにおいが辺りに立ちこめると、カペラはにおいを手であおぐ。テントの中に入らないようにしないと…。
「妊娠…ってどういうこと?」
 アヴィオールが母に尋ねる。まさかそんなことになるとは想像もしていなかったのだ。
「相手はミモザっすか?」
 一方のカノープスは淡々としている。「ええ、おそらく…」とカペラはつぶやき、顔を押さえた。
「あの2人、一緒にいる時間が多かったし、そういう関係になっていてもおかしくはなかったけど…一線を越えていたなんて。私がもっとちゃんとあの子を見ていれば…」
 フォマルハウトに顔向けできないと思った。一番弟子と愛娘の恋……いつからだったのだろう? 彼が亡くなった時から? それとも、私たち夫婦が北の町に行っていた時?
「で、どうするんすか? 俺たちは西の村まで進まなければならない」
 カノープスはそっけない態度だが、若干いらだちが交じっている。西の村が遠目に見え、あと少しで到着するのだが、つわりで苦しむ女を連れて行くなんてできるのか? ここまで来て引き返すことも難しいし、その時間もなかった。
 加えて、マルケブは候補生の筆頭だったミモザを連れ去った。無事でいるかも分からないし、誘惑して配下に引き入れているかもしれない。アルセフィナの安否も確認できない。そんな中、ミアプラを欠いて戦うことになるが――。
「まあ、悩んでも仕方ないか」
 カノープスが提案してきた。西の村に近づき、村の外にテントを張っておく。そこに、ミアプラとカペラを残す。カノープスとアヴィオール2人で殴り込むが、状況を見てアヴィオールを守りのために残す。
「え、じゃあ…」
「その場合は、俺1人であいつらと戦う」
「そんな…無茶だよ。魔人たちは全部倒したけど、暗黒十字だってまだ一つ残っているんだよ?」
 アヴィオールが心配そうに叫ぶ。すると、カノープスは残っていた星鏡七つのうち、五行全てを一つずつ譲った。手元には、二つあった水と土の星鏡のうち一つずつを残している。
「アヴィオール、お前の方が五行の使い方がうまいようだから渡しておく。いざとなったらしっかり守れよ」
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