Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

西の村の決戦④

「うわああ!!」
 濁流は三人と、その先にいたアルセフィナの元に向かってくる。3人を囲んでいた火の壁がジュッという音とともに消え、迫ってきた。
「アルセフィナ!」
 カノープスとアヴィオールが走り出した。が、カノープスがいた地点からは遠いため間に合わない。やむなく、カノープスは横っ飛びに濁流をかわした。
 アヴィオールは近い場所にいたが、迫ってくる濁流の方が速い。とっさに、五の秘剣・錨星でアルセフィナの体に剣を巻き付け、そのまま横の大木に巻き付けて自分の体も一緒に踊らせた。宙を舞った二人はギリギリのところで濁流をかわし、被害が及ばない地面に落ちた。地面にたたきつけられる寸前、アヴィオールはアルセフィナの体をがっちりと受け止めた。
「…アヴィ…」
「アルセフィナ…無事だね」
 するとアルセフィナはアヴィオールに抱きついてきた。良かった、けがもないみたいだ。さらに…
「あれ? アヴィオール。何しているんだ、こんなところで?」
 ミモザがきょとんとした表情で聞いてきた。
「ミモザ! 正気に戻ったんだね!!」
「え?」
 困惑するミモザ。
「お前は三つ目の暗黒十字に操られていたんだよ」
「何だって!?」
 愕然とする。紫微垣候補生の筆頭である自分が洗脳されていただと?
「心に隙があるとつけ込まれやすいみたいだ。お前、心に隙なんか作っていたのか?」
 ドキッとした。まさか、目の前にいる人物に嫉妬していたなんて言えない。
「まあ、お前の心の隙なんてどうだっていい。とりあえず全員無事だな」
 カペラとミアプラも歩いてきた。6人全員がけがもなく…と言いたかったが、アヴィオールは七星剣が折れた上にアルセフィナをかばったために腕を負傷し、アルセフィナも腰を打ってしまったようだ。ミモザは戦い続けたためにスタミナが切れてへたりこんでしまった。
「戦えるのは、カノープスとミアプラだけか…」
 とミモザがつぶやくと
「ばか言え、俺だけだ。あいつ、つわりでまともに動けないからな」
「え?」
 とミモザは目をむく。
「お前の子供を宿しているんだよ。早く介抱してやれ」
 それを聞くなり、ミモザはミアプラに駆け寄って彼女の体を抱えた。
「ミアプラ、本当なのか?」
 ミアプラは顔を赤くしてこくんとうなずく。
「気付いたのは昨日なの、体の調子が変で、そしたら突然気持ち悪くなって…」
「そうだったのか…」
 未成年の妊娠――珍しいものでもなかったが、紫微垣候補生として将来を考えなければならない立場の2人には重い現実だった。
「お前らの身の振りは戦いが終わってから考えろ。今は――」
 とカノープスは言い終わらないうちに、「危ない!!」と叫んだ。飛来してくる黒い物体――魔剣・コラプサーを見つけたのだ。しかし、他の者は気付くのが一瞬遅れ、避けるのに間に合わない。魔剣はミモザとミアプラに一直線に向かっていった。
が、突き刺さる直前、カペラが2人を突き飛ばした。
「カペラさん!!」
 2人はしりもちを付いたが助かった。しかし、魔剣は――カペラの体を貫いていた。そして1人でに動いてその体を横に切り裂き、飛び下がった。カペラはどすっと倒れた。
「お母さん!!」
 4人が駆け寄る。が、ほとんど息をしていない。口、そして傷口から血がとめどなく流れてくる。
「かはっ…2人とも無事…ね。よかった…」
「母さん!!」
「アヴィオール、ごめんね、こんな死に方になって…」
 アヴィオールとミアプラがカペラの手をとる。
「ミアプラ…あなたとは本当の親子じゃないけど…母親になれてうれしかったわ…」
「いやっ、母さん!!」
 ミアプラが叫んだが、カペラはもう動かなかった。父親だけでなく、まさか母親までもがコラプサーの犠牲に……。
「いやあああ!!」
 ミアプラは頭を激しく振って取り乱した。錯乱している。
「落ち着け、ミアプラ!」
「いやっ、いやああああああああ!!」
 カノープスが叫ぶが、ミアプラは治まらない。
「ミアプラ!!」
 突然、ミモザがミアプラを強く抱きしめた。
「ごめんミアプラ…僕がもっと強かったらこんなことにはならなかった…」
「…ミモザ」
 しん、と静まり返る5人。そこに、「ふははは!」という耳障りな甲高い声が聞こえてきた。あの建物の前に――マルケブがいたのだ。
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