Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

西の村の決戦⑤

「まったくどの子もこの子も始末に負えないわね。私の思い通りに動いてくれない」
「おふくろ…」
 カノープスが剣を構える。母親の姿は、妖艶さとまがまがしさが同居したようなものだった。一緒に暮らしていた時は、世界の全ての不幸を背負ったような悲壮が漂っていたが、今はどうだ――まるで暗黒の世界を支配する闇の女王だ。
「あんた…一体何がしたいんだ?」
「あらあら、反抗期の男の子は怖いわね。あんたに追い出されてから、私は自分の欲望に忠実に生きることにしたの。男どもをくって、お酒を浴びるように飲んで――このコラプサーのおかげで、その生き方ができるようになったわ」
 マルケブはいとおしそうに魔剣にほおずりをして口づけする。
「そうそう、このコラプサーは人間の死体を吸収して強くなるの。そこにある女の死体もいただこうかしら?」
「いや、やめて!!」
 ミアプラがカペラの遺体の前に両手を広げて立ちはだかる。
「もうみんなを傷つけるのはやめて!! あなたはこの村でそうやって生きていけばいいでしょ!? 私たちはもう帰るから!!」
 カノープスは眉をひそめた。何言っているんだ、こいつ。あの母親をこのままにしておけばもっと犠牲が出る。ここで仕留めておかないとまずい。
「ミアプラちゃん、それは違うわよ。あなたたちが自分の欲望や感情を暴れさせたからこうなったのよ。私やコラプサーはきっかけにすぎない」
 目をみはるミアプラ。
「あなたは父親や母親にわだかまりを持っていた。だからそこにいるお兄さんに身をゆだねた。そっちのお兄さんも、心のどこかにカノープスへの嫉妬があった。だから暗黒十字につけ込まれた。そこの死んだ女も、フォマルハウトの前妻との関係に多少の罪悪感があった。だから娘との関係がこじれた。あとは…」
「もうやめて!!」
 ミアプラが頭を抱えて叫び、「うわああああ!!」とわめきだした。再び精神が錯乱してしまったのだ。
「ミアプラ、落ち着け!!」
「うわあああ!! 私が…私が父さんも母さんも殺したんだ!!」
 ミモザが抱きしめ、アヴィオールもミアプラの体を腕で抱えるが抑えきれない。
「ミモザ、これ使え」
 カノープスはミモザに銀色の腕輪を放り投げた。
「これは?」
「新しい天漢癒の腕輪だ。神経や精神のダメージに効く」
 いつの間に……と驚いた。天漢癒の腕輪は、カペラが精製した外傷用のものだけだったが、これがあれば精神攻撃にも耐えられる。ミモザは急いで腕輪をはめ、ミアプラに触れてみた。すると、錯乱していた彼女が落ち着き、表情も安らかになって寝息を立て始めた。
「治まった…」
 ミモザもアヴィオールもその場にへたり込んだ。が、安心している場合でもない。カノープスが「立て」と鋭く指示してきた。
「お前らは女子らを守れ。俺があの母親を仕留める」
「できるのか?」
 相手は肉親だぞ? とでも言いたげなミモザに対して
「紫微垣なら、敵が誰であろうと退ける。そうだろう?」
 カノープスは皮肉を含めた笑いを向けた。何という男だ。秘剣の技、身体能力だけでなく、精神力もここまで強いとは――。ミモザは「こいつには勝てない」と、この瞬間悟った。
「カノープス、頼む。どうやら君に任せるしかないみたいだ」
「こっちは僕らで守るから!」
 するとカノープスは無言でマルケブに向き直り、剣を構えた。
「言うようになったじゃない、カノープス。もう大人ね」
「おしゃべりはここまでだ、いくぞ」
すると、マルケブは魔剣を天に掲げ、振り下ろした。すると、黒い光が刀身から発射された。
「ミモザ! アヴィオール! 来るぞ!!」
 カノープスは後ろにいる2人に叫んだ。2人はとっさに七星剣を逆さに構える。
「七の秘剣・文綾の星!!」
 前方に二つの空気の渦が発生し、コラプサーからの黒い光をはじき飛ばした。が、第2波が間髪入れずに来たため、構えを解けない。しかも彼らの後ろにはミアプラ、アルセフィナがいて、カペラの遺体もある。もし衝撃波に押されてまともに食らったら、ひとたまりもないだろう。
 と思っていたら、2人の七星剣にひびが入り、衝撃波が終わるとともに砕け散った。
「なっ!!」
 頼みの綱であった七星剣――破損したのはこれで3本目だ。
「ふふっ、後ろの坊やたちもやるわね。じゃあ、ここで最後の暗黒十字を使ってあげるわ」
 マルケブは黒い十字架を懐から取り出した。
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