Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

三羽ガラス

「アルクトゥルス、紫微垣になったって!?」
 ある朝。学舎の教室の扉を開けるなり、アルクトゥルスに笑顔で詰め寄ってきた少年がいた。彼はカストルという名で、同学年で最も武術に長けていて、最も調子のいい生徒として有名だった。
「誰から聞いたんだよ」
「ふっふっふ。このカストルの情報網を甘くみるなよ」
「何言っている。もう学舎じゅうが知っているさ」
 別の少年が冷静な声で突っ込みを入れる。
「ポルックス、おはよう」
 アルクトゥルスは挨拶で返す。後世に北の町を治める少年は「有名人は大変だな」と肩をすくめて苦笑いする。ポルックスが言うには、アルクトゥルスが校長に報告した後、瞬く間に学舎じゅうに広まったらしい。
「ったく、アルクも水くさいなあ、先に俺たち親友に教えてくれたっていいじゃねえか」
 カストルがにやにやしながら肩を組んでくる。
「はっはっは、師匠から先に校長に報告しろって言われてな……あの人の指示をうっちゃらかすと後が怖いから」
 厳しい修行を思い出し、背中がブルッと震える。その様子を見て、お調子者のカストルも凍り付く。何度か修行の様子を見たが、聞きしに勝る苛烈さだった。
「ところで2人とも」とポルックス。
「僕の言語の教科書を知らないか? 昨日から行方不明で…」
 カストルが鞄からスッとその教科書を取り出す。
「ああ、借りてたんだ」
「は? 貸した覚えはないぞ!」
「うん、断られると思ったから、無断で借りた。俺なくしちゃってさ…」
「よこせ!」
 ポルックスは教科書をひったくると、名前が書いてある裏表紙をめくった。
「…なんだ、この落書きは!?」
 そこには、かわいらしいこぐまのイラストが。
「一応、俺が借りたという記念にな。こぐまはかわいいぞ、とても陸上最強の動物になるとは思えない…」
 刹那、ゴガッという音が響く。ポルックスの拳がカストルの脳天に飛んできたのだ。
「ごおおお……!」
 そこから先はもうシッチャカメッチャカだった。暴れるポルックスをなだめるアルクトゥルス、懲りずに「分かった分かった、母熊も描けばいいんだろ」と母熊を追加するカストル。それに「やめんか、コルア!」と怒鳴るポルックス。
「あーあ、また三羽ガラスがやっているよ」
「毎日飽きないわね」
「お調子者のカストルはともかく、優等生なポルックスは何でいつもカストルに振り回されているのかしら」
 周りの生徒たちはいつもの様子を見るかのように遠巻きに眺めている。お調子者でクラスのムードメーカー・カストル、優等生でクールだがカストルだけには感情剥き出しになるポルックス、そして穏やかで誰にでも優しいアルクトゥルス。この3人は北の町の学舎では「三羽ガラス」として有名で、騒動とまではいかないものの、学舎を毎日にぎやかにしていた。性格がバラバラの3人だが、なぜかウマが合い、こうしていつもつるんでいるというわけである。
「おーい、何している? ホームルームを始めるぞー」
 教室に入ってきたのは担任・レグルスである。年齢は25歳の青年で、端正な顔立ちに明晰な頭脳とたくましい肉体を持っている。性格も明るくて生徒の面倒見も良く、「少し上のお兄さん」的な存在で人気があった。
「さて、今日は重要な発表があるな。アルクトゥルス、立って」
 レグルスに指名されたアルクトゥルスはすくっと立った。
「もう知っている者もいると思うが、アルクトゥルスが四代目紫微垣を継承した。おめでとう、みんなも拍手を送ってくれ」
 教室じゅうに拍手が鳴り響いた。
「ありがとうございます」
「せっかくだから、修行中のことを少し話してくれないか?」
 レグルスに促されてしばし思案する。が、ガタガタと震えだして冷や汗を流す。
「…いや、あまり思い出したくないんで」
「そ、そうか、すまない。それほど過酷だったのか」
 もう座っていいよ、と言われて着席する。レグルスは話題を変えた。
「もうすぐ夏休みだが、君たちは学舎最後の夏休みになる。進学する者、就職する者、悔いのないものにしてほしい。来年の春には君たちは卒業だからな」
 星の大地の学舎は、15歳を迎える年で卒業になる。その後は、より高度な勉強をするために進学するか、就職するかの道を選ぶことになるのだ。アルクトゥルスは紫微垣となったため、卒業後はその任務に当たる。
 夏休み前で生徒達は色めきだっていて、三羽ガラスも例外ではない。ホームルームが終わると、カストルが他の2人に提案してきた。
「どうせならさ、五車の島でキャンプでもしないか? 女の子たちも誘って」
「お前はもともと女子が目的だろう」と呆れるポルックス。アルクトゥルスは「師匠に了解を取ってみるよ」と答えた。

 その翌日。予想とは違う形のキャンプをすることが決まった。
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