Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―
岩屋でのキャンプ
「…どういうことだ、これは?」
ポルックスが眉間にしわを寄せる。
「さあ?」
アルクトゥルスがしれっと首をかしげる。
「まあ、いいじゃねえか。うまいメシもあることだし」
カストルがうまそうに焼きおにぎりをほおばる。
夏休みの初日。三羽ガラスは紫微垣の修行地兼詰め所である岩屋でキャンプをしていた。最後の夏休みの思い出として、キャンプの名所である五車の島に行く……はずだったのだが――。
話は、アルクトゥルスが師匠のカノープスに相談した日まで遡る。
「キャンプ?」
「はい、学舎の最後の思い出として、いつもの3人で行ってこようと思うんです」
にこやかに相談するアルクトゥルス。しかし、カノープスはあごひげに手を当てて「キャンプはいいが、五車の島はだめじゃな」とにべもなく言い放った。
「ええ!? どうして!?」
「お前、気付いてないのか? まだ青いな」
カノープス曰く、ポラリスを狙う者が最近うろうろしているという。紫微垣になった以上、この状況では北の町を離れることはよろしくない。
「やるならこの町でキャンプをしろ。そうじゃ、岩屋ならうってつけじゃぞ」
「はあ……」
アルクトゥルスは顔をひきつらせる。過酷な修行の思い出が多いだけに、あまりキャンプをしたい場所でもない。
「何ならわしが毎日差し入れしてやる。紫微垣の初めての仕事として、賊どもを追い払って見せよ」
そんなわけで、三羽ガラスは岩屋でキャンプをすることになった。カストルは初めしぶったが「まあ、海は近いから海水浴にはいいし、じいさんのうまいメシも食えるし、どこでやったって女の子は呼べばいいのか」とあっさりと承諾した。
実際、数人の同級生の女子が一緒に夕食を食べている。カストルは「アルクのお師匠さんのメシが食えるから、一緒に来ないか?」と、仲の良い女の子グループいくつかに声を掛けていた。「カノープスさんのごはん!? いくいく!!」と、女子たちはこぞってやってきた。カノープスが経営する茶屋は女子たちに人気だから喜ばれた。
また、親から外泊の許可が出ない子も日帰りならと来られるので、多くの女子が来たのだ。
「おいしい! カノープスさんってすごいんだね!」
「ほんと! こんなおいしいごはん、男性が作れるなんて!」
女子たちはやはり、おいしい食事が好きらしい。カストルは金網で魚介類を焼きながら「どうだ、すごいだろう?」となぜか自慢している。
「いいのか、アルクトゥルス?」
ポルックスが呆れて尋ねるが
「カストルは女の子たちとよろしくやっていればいいさ。最後の夏だからな」
半ばあきらめに近い口調で答える。すると、その隣に1人の女子が座った。
「アルク、ここいいかな?」
「デネボラ…」
顔が赤くなるのが分かった。彼女は学舎でも屈指の美少女で…アルクトゥルスが好意を寄せている女の子だった。
「今日はありがとう、誘ってくれて。ま、キャンプと言っても女子チームはみんな日帰りだけどね」
「デ、デネボラこそ、今日は来てくれてあ、ありがとう…」
恥ずかしくて声がうわずる。何か話さなければ――。
「誘ったのはカストルのヤツだろう。まったく、いつも自由奔放にやってくれるよ」
ポルックスがため息をつく。微妙な助け船だ。アルクトゥルスは緊張のあまり、のどが渇いたのでお茶を飲む。
「ねえ、三羽ガラスは好きな女の子いないの?」
突然の話にアルクトゥルスは飲んでいたお茶を吹き出し、ポルックスは「は?」と目を点にする。
「あなたたち三羽ガラスって、けっこうモテるのよ? 女の子たちは、3人がどんな女の子が好きか、いつも話しているんだから。頭脳明晰でクールなポルックス、明るくてムードメーカーのカストル、紫微垣になって人気急上昇のアルクトゥルス――」
アルクトゥルスは、心臓の鼓動が早くなるのを自覚した。意中の女子から「モテる」「人気急上昇」なんて言われたら思春期の男子は落ち着かない。ど、どうしよう…。すると、ポルックスがしれっと言った。
「この3人で女子の話なんてしないよ。まあ、カストルのバカはあんな調子で楽しく遊んでいるだけで、僕らはよく巻き込まれているだけのことだ――アルクトゥルス、そろそろ時間じゃないのか?」
「ああ、そうだな」
アルクトゥルスがすっと立ち上がる。
「? どうしたの?」
座っているデネボラがきれいな目で見上げてくる。水晶のように透き通る瞳が月明かりに照らされて一層美しい。
「秘剣の練習だよ。師匠から毎日やれって言われていてね」
朝、昼、夕のそれぞれの時間に、七つの秘剣を一セットずつやる。そうすることで秘剣の精度を一定に保つのだ。
「秘剣見せてくれるの!?」
「見世物にはできない。でも、練習を見たければ見ていてもかまわないよ」
アルクトゥルスはバーベキューの場所から少し離れて、一本の大木の前に来た。太い枝にロープで結ばれた丸太がぶらさがっている。アルクトゥルスは七星剣を構えた。
「一の秘剣・魚釣り星!」
七星剣が鞭状に変形し、動物のしっぽのように丸太に向かっていく。バチイン、という音に、食事をしていた者たちも振り返った。アルクトゥルスは、次々に秘剣を繰り出していく。それを見た友人たちから「おおーー!!」という歓声が上がった。
「アルク、すごい!!」
「本当に紫微垣になったんだ、かっこいい!!」
褒められて心が少し浮かれた。その時、丸太が目の前に振り子のように迫ってきた。
「っと!!」
紙一重で回避する。いついかなる時も平常心を忘れないよう指導されていたのに、これではまたカノープスに「まだまだ青い」と言われる。
アルクトゥルスは、反動で戻ってきた丸太の前に立ち、七星剣の柄を上にした。
「七の秘剣・文綾の星!」
空気の流れが変わり、丸太が弾かれた。アルクトゥルスは「ふうっ」と息を吐いて体の緊張をほどく。これで今日の練習は終わりだ。
ポルックスが眉間にしわを寄せる。
「さあ?」
アルクトゥルスがしれっと首をかしげる。
「まあ、いいじゃねえか。うまいメシもあることだし」
カストルがうまそうに焼きおにぎりをほおばる。
夏休みの初日。三羽ガラスは紫微垣の修行地兼詰め所である岩屋でキャンプをしていた。最後の夏休みの思い出として、キャンプの名所である五車の島に行く……はずだったのだが――。
話は、アルクトゥルスが師匠のカノープスに相談した日まで遡る。
「キャンプ?」
「はい、学舎の最後の思い出として、いつもの3人で行ってこようと思うんです」
にこやかに相談するアルクトゥルス。しかし、カノープスはあごひげに手を当てて「キャンプはいいが、五車の島はだめじゃな」とにべもなく言い放った。
「ええ!? どうして!?」
「お前、気付いてないのか? まだ青いな」
カノープス曰く、ポラリスを狙う者が最近うろうろしているという。紫微垣になった以上、この状況では北の町を離れることはよろしくない。
「やるならこの町でキャンプをしろ。そうじゃ、岩屋ならうってつけじゃぞ」
「はあ……」
アルクトゥルスは顔をひきつらせる。過酷な修行の思い出が多いだけに、あまりキャンプをしたい場所でもない。
「何ならわしが毎日差し入れしてやる。紫微垣の初めての仕事として、賊どもを追い払って見せよ」
そんなわけで、三羽ガラスは岩屋でキャンプをすることになった。カストルは初めしぶったが「まあ、海は近いから海水浴にはいいし、じいさんのうまいメシも食えるし、どこでやったって女の子は呼べばいいのか」とあっさりと承諾した。
実際、数人の同級生の女子が一緒に夕食を食べている。カストルは「アルクのお師匠さんのメシが食えるから、一緒に来ないか?」と、仲の良い女の子グループいくつかに声を掛けていた。「カノープスさんのごはん!? いくいく!!」と、女子たちはこぞってやってきた。カノープスが経営する茶屋は女子たちに人気だから喜ばれた。
また、親から外泊の許可が出ない子も日帰りならと来られるので、多くの女子が来たのだ。
「おいしい! カノープスさんってすごいんだね!」
「ほんと! こんなおいしいごはん、男性が作れるなんて!」
女子たちはやはり、おいしい食事が好きらしい。カストルは金網で魚介類を焼きながら「どうだ、すごいだろう?」となぜか自慢している。
「いいのか、アルクトゥルス?」
ポルックスが呆れて尋ねるが
「カストルは女の子たちとよろしくやっていればいいさ。最後の夏だからな」
半ばあきらめに近い口調で答える。すると、その隣に1人の女子が座った。
「アルク、ここいいかな?」
「デネボラ…」
顔が赤くなるのが分かった。彼女は学舎でも屈指の美少女で…アルクトゥルスが好意を寄せている女の子だった。
「今日はありがとう、誘ってくれて。ま、キャンプと言っても女子チームはみんな日帰りだけどね」
「デ、デネボラこそ、今日は来てくれてあ、ありがとう…」
恥ずかしくて声がうわずる。何か話さなければ――。
「誘ったのはカストルのヤツだろう。まったく、いつも自由奔放にやってくれるよ」
ポルックスがため息をつく。微妙な助け船だ。アルクトゥルスは緊張のあまり、のどが渇いたのでお茶を飲む。
「ねえ、三羽ガラスは好きな女の子いないの?」
突然の話にアルクトゥルスは飲んでいたお茶を吹き出し、ポルックスは「は?」と目を点にする。
「あなたたち三羽ガラスって、けっこうモテるのよ? 女の子たちは、3人がどんな女の子が好きか、いつも話しているんだから。頭脳明晰でクールなポルックス、明るくてムードメーカーのカストル、紫微垣になって人気急上昇のアルクトゥルス――」
アルクトゥルスは、心臓の鼓動が早くなるのを自覚した。意中の女子から「モテる」「人気急上昇」なんて言われたら思春期の男子は落ち着かない。ど、どうしよう…。すると、ポルックスがしれっと言った。
「この3人で女子の話なんてしないよ。まあ、カストルのバカはあんな調子で楽しく遊んでいるだけで、僕らはよく巻き込まれているだけのことだ――アルクトゥルス、そろそろ時間じゃないのか?」
「ああ、そうだな」
アルクトゥルスがすっと立ち上がる。
「? どうしたの?」
座っているデネボラがきれいな目で見上げてくる。水晶のように透き通る瞳が月明かりに照らされて一層美しい。
「秘剣の練習だよ。師匠から毎日やれって言われていてね」
朝、昼、夕のそれぞれの時間に、七つの秘剣を一セットずつやる。そうすることで秘剣の精度を一定に保つのだ。
「秘剣見せてくれるの!?」
「見世物にはできない。でも、練習を見たければ見ていてもかまわないよ」
アルクトゥルスはバーベキューの場所から少し離れて、一本の大木の前に来た。太い枝にロープで結ばれた丸太がぶらさがっている。アルクトゥルスは七星剣を構えた。
「一の秘剣・魚釣り星!」
七星剣が鞭状に変形し、動物のしっぽのように丸太に向かっていく。バチイン、という音に、食事をしていた者たちも振り返った。アルクトゥルスは、次々に秘剣を繰り出していく。それを見た友人たちから「おおーー!!」という歓声が上がった。
「アルク、すごい!!」
「本当に紫微垣になったんだ、かっこいい!!」
褒められて心が少し浮かれた。その時、丸太が目の前に振り子のように迫ってきた。
「っと!!」
紙一重で回避する。いついかなる時も平常心を忘れないよう指導されていたのに、これではまたカノープスに「まだまだ青い」と言われる。
アルクトゥルスは、反動で戻ってきた丸太の前に立ち、七星剣の柄を上にした。
「七の秘剣・文綾の星!」
空気の流れが変わり、丸太が弾かれた。アルクトゥルスは「ふうっ」と息を吐いて体の緊張をほどく。これで今日の練習は終わりだ。