Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

届かぬ想い

「すごーい、これが紫微垣の秘剣!」
 女の子たちは黄色い声をあげる。
「すごいだろ? 三羽ガラスの1人が紫微垣になったって鼻高々だもんな」
 自慢げに語るカストルに、「だからなんでお前が威張る」と冷静に突っ込むポルックス。そんな言葉などどこ吹く風とばかりに、「なあ、推し秘剣はあった? どれが一番かみんなで人気投票しようぜ。題して、第1回推し秘剣選挙!」と、女の子たちとはしゃいでいる。
 そんな彼らをよそに、アルクトゥルスは庵に引き上げていった。
「あら、どうしたのかしら、アルク?」
 デネボラが首をかしげると、ポルックスが補足した。
「ああ、あいつはこれから読書の時間だよ」
 行ってみるか? とポルックスに促され、デネボラは庵に入ってみた。すると、そこには膨大な量の本があったのだ。
「わあ、これ…全部アルクのなの?」
「歴代の紫微垣が残した文献だよ」
 椅子に腰掛けて本を読んでいたアルクトゥルスが答える。デネボラが手渡された本を開いてみると、過去の出来事がびっしりと書かれていた。
「これ…妖星疫が蔓延した時の?」
「ああ、当時の紫微垣はフォマルハウトと言って、もともと『昴新報』の記者だったらしいんだ。健筆の持ち主で、当時は多くの文献を残すことができたらしい」
 ほかにも、初代紫微垣アルコルが残した神の啓示に関する日記、カノープスが他の候補者たちと接した記録も残っている。
「これ、全部読むの?」
「ああ」
 デネボラの問いにアルクトゥルスはしれっと答える。正式に紫微垣となったからには、これまでの歴史も覚えなければいけないのだ。
「…何だか、私のような普通の女の子とは次元が違う所にいるのね。紫微垣って」
 するとアルクトゥルスは本を置いて慌てて立ち上がる。
「い、いや、そんなことはないよ。俺だって普通の人間なんだから」
 そう――紫微垣は神の加護と超人的な戦い方を得る。しかし、それ以外は普通の人間なのだ。それに、そんな言い方されたら、デネボラとの距離が遠ざかってしまいそうだ。
「ところでデネボラ、君には意中の人はいないのか?」
 突然、ポルックスが尋ねた。
「え、ええ!?」
 デネボラが動揺する。アルクトゥルスは動揺が悟られないようどうにか堪えた。
「い、いるけど……」
「誰だ?」
 たたみかけるポルックス。
「ど、どうしたんだよ、ポルックス」
「デネボラは僕らが及ばないほど学舎で人気があるだろう。男子からの人気では、いつも一、二を争っている。そんな人気者の意中の相手は誰だって知りたいだろう」
「え、ええ、そうみたいね……」
 デネボラが顔を真っ赤にして答える。ポルックスがしれっと聞けるのは、デネボラに特別な感情がないからだ。デネボラもまた、ポルックスに恋愛感情を抱いていないのは分かるようだ。
 さらに、ポルックスがアルクトゥルスをちらっと見やったのは、アルクトゥルスがデネボラに好意を寄せているのを看破しているからだろう。このクールな友人は他人に興味がなさそうなそぶりをするくせに、人を観察する洞察力に長けているのだ。
「で、どうなんだ? 青春の最後の夏に、打ち明けてもいいんじゃないか?」
「う、うん…でも、学舎の生徒じゃないの」
 これを聞き、アルクトゥルスの思考が止まった。生徒じゃない? ということは俺は……。
「誰にも言わないでね……先生」
「は?」
「レグルス先生……」
 さらに衝撃が走る。アルクトゥルスにとっては二重のショックだ。
「1年前から好きで、最近、私から告白したの。そしたらOKだって……」
「おいおい、まさかまさかの展開だな……」
 クールなポルックスが焦っている。アルクトゥルスが能面のように固まっているのに気を払いつつ、デネボラに伝えた。
「卒業してから公にするんだよな? だったら僕らもばらさない。そうだな、アルクトゥルス?」
「え?……あ、ああ」
「ごめんね、アルク。突然でびっくりしたよね」
 すると、外から女子の1人がデネボラを呼びに来た。
「デネボラ、キャンプファイアーするって。行こっ!」
 その女子に手を引かれて、デネボラは庵を出て行った。あとに残ったのは、固まった2人の男たちだ。
「…アルクトゥルス、大丈夫か?」
「あ、ああ」
「長い人生、こういうこともある。気を落とすな」
 自分と同じ年のくせに年寄りじみたことを言って…と思いつつ、アルクトゥルスはポルックスの気遣いが嬉しかった。失恋かあ――まあ、よくあることだよな。また新しい恋を見つければいいか。
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