Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

未来への想い

 それから数日間。三羽ガラスと女の子たちはキャンプを楽しんだ。昼は海で泳ぎ、魚釣りや野菜の収穫をし、夜にはカノープスの料理を堪能する。その後はキャンプファイアーを囲んで語らい、時には花火もした。カストルは女の子たちと過ごす時間が多く、ポルックスは基本的に本を読み、アルクトスルスは修練を続けた。
 生徒としての最後の夏休みを思い思いに楽しむ――まさに青春だった。この夏が終われば一気に秋、冬となり、次に春を迎える時は、それぞれの進路に歩み出す。三羽ガラスで一緒にいるのも、この15歳が最後になるだろう。
 キャンプを始めてから1週間ほどしたある夜。みんなでキャンプファイアーを囲みながら、将来について語り合った。最初はカストルである。
「卒業したら、警備兵になるのが決まっている。勉強ができない分、体力仕事でがんばるさ」
「カストル、強いもんね」
 女の子の1人が笑顔でうなずく。
「ポルックスは上級の学舎に進学するんだよね?」
「ああ、将来は役人になる予定だからな」
 ポルックスはクールに答えた。
「エリートの道を進むのね。かっこいい」
「まあ、あまり面白みはないけどな」
 心なしか、ポルックスの表情は淋しそうである。
「そしてアルクは紫微垣よね」
「そうだね」
 この世代では、たった1人で進む道である。ポラリスの守護者としての人生はどれほど過酷なのか……想像することもできない。
「ところで女子のみんなはどうなんだ? 進学と就職、どっちが多いんだ?」
 カストルが水を向ける。
「今年度の女子は、進学が2割、8割弱が就職じゃない? 卒業してすぐに結婚する子もいるかもしれないし……」
 この時代の星の大地では、女性が学業に打ち込むことは少なかった。進学する2割は一部の天才ともいうべき女の子たちである。他の8割は地場産業である漁業関係の仕事や、家業の手伝いなどをすることが多い。結婚する人もいるが、成績がふるわなかったり、在学中に妊娠してしまったりした子がそうなるようである。
 アルクトゥルスは、デネボラがレグルスと相思相愛になったことを思い出し、彼女はどうするのかが気になった。残念ながら、今日は彼女は来ていない。
「ま、別々の道を進むって言っても今生の別れになるわけじゃなし、またこうやって集まるのもいいかもしれないな」
 カストルののんきな一言は、数年後、違う意味で実現することになる。

 さて、女子たちも帰った夜9時頃。三羽ガラスも寝ようかと思い、テントに入った。その時である。
「!!」
「どうした? アルクトゥルス」
 アルクトゥルスの表情が強ばったのを、ポルックスは見逃さなかった。
「不穏な足音がする。1人や2人じゃない……10人、20人はいるな」
「何だって!?」
 もう横になっていたカストルが叫ぶ。カノープスが言っていた賊――まさか本当に来たのか?
 アルクトゥルスは七星剣をとり、音のする方へ駆けだした。ポルックスとカストルも、それぞれ木製の武器を手に取って追いかけた。

 三羽ガラスの行き先は武曲の祠――北辰の祠への山道の入り口がある場所だ。賊は基本的にここからポラリスを目指す。他の道はほとんど整備されていなくて危険なのだ。
「ちょ、アルクのヤツ、こんなに足速かったのかよ?」
 カストルが息を切らす。身体能力には自信があるのだが、アルクトゥルスの俊足にはついていけない。
「紫微垣になったんだ、常人とは違うさ」
ポルックスが走りながら答えた。こちらも息が絶え絶えである。が、2人とも常人にしては足が速い方なので、なんとか追いついた。
「アルクトゥルス…どうなんだ? 不審な者はいるのか?」
 ポルックスが尋ねる。
「…不審者はまだいない。けど…」
「けど、何だよ?」
 カストルが唾を吐いた。口の中に砂埃が入ったようだ。
「逢瀬中の男女がいる」
「はあ!?」
 アルクトゥルスが指さす方を見ると――そこにいたのは、学舎で人気のある女子と、自分たちの恩師であった。
「デネボラと…レグルス先生!?」
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