Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

貧民街の想い人

 北の町の西側に、ひとり親家族や孤児が住む街がある。家賃は安いが手入れがろくにされていない家屋が多く、町の人々からは「貧民街」と呼ばれている。事実、住む者は貧困に陥っていることが多い。
 三羽ガラスはこの街に来て、人を探し回った。かつての学友でアルクトゥルスの想い人だった少女・デネボラである。未来への希望を胸に卒業したのに、なぜここに住んでいるのだろうか?
「アルクトゥルス、大丈夫か?」
「ん? ああ……」
 ポルックスの言葉に一瞬首をかしげたが、すぐに思い至った。4年前、想いを寄せていた少女であることをこの友人に悟られたんだった。今はどんな女性になっているか……こんな形で再会するかもしれないとは思ってもいなかったが。
「ようよう、何しに来たんだ、兄ちゃんたち」
 ガラの悪い男たちが群がってきた。いわゆるごろつきどもだ。ポルックスとカストルが払いのけようとしたら、アルクトゥルスが一の秘剣・魚釣り星を放ち、その先にある岩を切り裂いた。
 ごろつきどもが呆然とする。
「お前らにかまっている暇はない。人を探しているんだ」
 アルクトゥルスの表情が氷のように冷たい。早くデネボラに会いたいという気持ちとは裏腹に、極めて冷徹である。気を取り直して、カストルが尋ねた。
「お前さんらよ、デネボラって女を知らねえか? この辺りに住んでいるって……」
 するとごろつきどもの顔が青くなった。
「あっ、あの女に何の用だ!?」
「こ、この道の突き当たりのあばら屋にいるぜ? あの女を連れていくんなら、さっさと連れて行ってくれ!!」
 そう言って三々五々散っていった。一体何なんだ?
 三羽ガラスは言われた道を進み、突き当たりのあばら屋まで着いた。
「…なあ、ここにデネボラがいるのかよ?」
 カストルがきょとんとしながら言った。4年前、学年でトップクラスの美女だった彼女がこんなところに住んでいるとはとても思えない。
 アルクトゥルスは戸を叩いた。が、返事がない。留守だろうか?
「何かご用ですか?」
 3人の後ろから女性の声がした。振り返ると――やや乱れた長い髪に着崩れた薄手の服を着た美女が立っている。男性なら十中八九は見とれる顔立ちだが、表情に覇気がない。
「…デネボラ?」
「え?」
 女性は一瞬、きょとんとしたが、ハッとした表情で踵(きびす)を返して逃げ出した。
「ちょ!」
「おい、待て!」
 カストルとポルックスが叫んだ途端、アルクトゥルスが跳躍して彼女の前に立ちはだかった。
「どこに行く?」
 アルクトゥルスは感情を押し殺したような冷めた声で言った。
「アルク……」
 その女性――デネボラは冷や汗を流す。面影はあるが、あの卒業の日、「がんばってね」と笑顔を向けてくれた少女とは思えなかった。
「話を聞かせてほしい。なぜ君はここにいるんだ? レグルスはどうした? なぜ一緒じゃないんだ?」
 そうたたみかけると、デネボラは地面に突っ伏して「うわああん!!」と泣き出した。

 とりあえず、近くのベンチに腰掛けて話を聞くことにした。この貧民街界隈には喫茶店のような場所がない。住民は外食する経済的な余裕がないため、利用する者がいないからだ。
「じいさんの軽食なら持っているぜ? いるか?」と、カストルがバッグから握り飯、魚と野菜の煮物を出す。
「何でお前が持っているんだよ」とポルックスが聞くと、例の茶屋で情報収集をしている時に「麹と醤油で作った新しい調味料で味付けした。持って行け」と試食品を渡されたらしい。「うまそう、握り飯に合いそうだな!」と言ったら「じゃあ、これも持って行け」と、握り飯を三つくれたという。
「カストル、くれぐれも落とさないでくれよ」
 アルクトゥルスが釘を刺す。あの夏の恐怖は今でもトラウマものだった。
すると、デネボラはその握り飯に手を伸ばし、パクパクと食べ始めた。一つ目を食べ終わると、すぐに二つ目、三つ目をたいらげる。唖然とする三羽がらすに、デネボラがハッとした。
「ご、ごめんなさい。はしたないことしちゃって……」
 頬が赤くなると、4年前のデネボラの表情が戻った。
「もしかして、しばらく食べていないのか?」
 ポルックスの問いに、デネボラはこくんとうなずいた。そして、卒業してからの経緯をぽつぽつと語り始めた。
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