Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―
瘴気
それから1時間後。三羽ガラスは北辰の祠に来た。そこにはすでに、警備兵のうち若手30人ほどが揃っていた。
「カストル、これが一緒に戦ってくれるメンバーか」
自分たちとほとんど年が変わらない。考えてみると、今回の戦いは子供の武装蜂起に対し無関心な大人たちという構図である。それを止めるのが、19歳という子供と大人の間にいる自分たちの世代であることは、何か意味があるかのように感じた。
「じゃあ、具体的な作戦を説明するぜ」
警備兵とポルックスは、北辰の祠を囲むように守る。防衛陣は二列で、前はカストル、後ろはポルックスが指揮を執る。アルクトゥルスも最初は北辰の祠で待機する。
敵が出撃した頃を見計らって、アルクトゥルスは間道を通って敵軍の背後に回る。そして、敵将であるレグルスを討ち取る。大将は陣の中央最後列に配置されるのが定石だ。そこから北辰の祠までの坂を駆け上がり、レグルスの首か遺体を見せつける。
「それで奴らは戦意を喪失するはずだ」
「しなかったら?」
水をさすようにポルックスが言った。
「その時は消耗戦になる。が、こっちには紫微垣がいるからな。勝てるさ」
やれやれ、と言わんばかりにポルックスは祠の横にある椅子に座った。そういえば、この男は警備兵ではなく文官のはずだ。なぜ、この場にいるのだろう?
そんなことを考えるアルクトゥルスの表情を読み取ったのか、ポルックスが言った。
「理由は三つある。一つ、じじいどもの無責任さが気にくわないこと、二つ、文官でも有事の際は戦えると思い知らせること、三つ…」
ポルックスは珍しくにやっと笑った。
「お前らを放っておけないことだ」
日付が変わって3時間――斥候チームから報告が届いた。
「盗賊団、武曲の祠に集まっています」
人数はやはり200人はいるらしい。カストルはアルクトゥルスに目配せした。
「頼むぜ、アルク。武運を」
「ああ、任せろ。武運をな」
お互いにその言葉だけをかわすと、アルクトゥルスは西に向かって走り出した。30分後には破軍の祠から1km離れた地点に到着した。
近くの岩の隙間に身を潜めていると、少し離れた所からガサガサッという足音がして、北に向かっていくのを察知した。人数はおよそ20人前後――作戦通りである。
敵軍をやり過ごした後、アルクトゥルスは岩の隙間から出て、再び走り出した。10分後、破軍の祠にたどり着き、そこから東に走り出した。
走りながら、アルクトゥルスの胸にいろいろな思いが去来する。
紫微垣を継承した15歳。同級生たちと一緒に過ごした夏休み、失恋、集団自殺した子供たち、三羽ガラスの誓い――その4年後の今、かつての恩師が暴挙を起こし、そしてかつての想い人が心に傷を負っていた。親友2人とともに誓いを果たそうとしつつも、レグルスとデネボラのことが頭を離れなかった。
「!?」
アルクトゥルスは前方に人影を視認した。誰だ?
「アルク…」
朝がまだ明けていないため、暗がりで顔が見えない。が、それは聞き覚えのある女性の声だった。
「…デネボラ?」
アルクトゥルスの前にいたのは――間違いなくデネボラだった。黒いワンピースを着ていて、妖艶に微笑んでいる。そして右手には…あの魔剣・コラプサーが握られていた。
「デネボラ、なぜここに!?」
「ふふふ」
デネボラは自分のワンピースを破り裂いた。下着もなにも着ていない、裸である。
「ねえ、アルク。ひとつになろうよ」
デネボラは大地を踏み込み一気に間合いを詰める。虚をつかれたアルクトゥルスはデネボラに押し倒された。
(しまった……!)
デネボラはアルクトゥルスの体にかぶさり、いきなり唇を重ねてきた。彼女の舌、柔らかい胸、絡んでくる滑らかな脚……妖艶な色欲がまとわりついてくる。アルクトゥルスは失いかけた理性をなんとか呼び戻す。
「デネボラ!!」
強引に彼女を引きはがし、飛び退いて間合いをとる。
「邪魔しないでくれ! 大事な戦いがあるんだ!」
「レグルスのこと? もういいじゃない、あんな男。私と一緒に楽しみましょうよ」
妖しく微笑むデネボラ。その右手を見ると、コラプサーからパリッパリッと黒い稲妻が走っていた。
(…やはり、コラプサーに魅入られていたのか!)
貧民街で再会した時の彼女は、はかなげな雰囲気があった。が、コラプサーと一緒にいるうちに、いつの間にか瘴気にあてられていたのだろう。コラプサーは持ち主の欲望に感応すると言われるが、デネボラの場合は色欲なのだろうか。
デネボラは魔剣を振りかざして突進してきた。アルクトゥルスは七星剣を構え、眼前で受け止める。ガキインという音が未明の闇にこだました。
「くっ……」
アルクトゥルスは手がしびれるのを感じた。細腕の彼女の力とはとても思えない。これもコラプサーの魔力なのか!?
突然、デネボラの手が背中に回り、そのまま抱きついてきた。
「!?」
再び唇を奪われ、息が止まる。
「っは!!」
何とかまた引き剥がして離れる。自分の唇にデネボラの口紅が付いていることに気付いた。
「もう、照れ屋ねアルク。すでに一線越えたのに恥ずかしがらないでよ」
デネボラは赤くにじんだ自分の唇を艶めかしくぬぐう。さらに、一瞬で姿を消したかと思うとアルクトゥルスの顔に股を近づけ、そのまま挟み込んで押し倒した。
「ぐっ!!」
もがくがはがれない。
「やっ…動くと…んっ」
嬌声を出すデネボラ。裸なので感触が直に伝わるのだろう。アルクトゥルスは渾身の力で脱出した。
(はあ、はあ…このままでは僕まで色欲の瘴気に取り込まれかねない)
こんな状況は想像もしていなかった。学舎にいた時は想いを寄せていた女性だ。卒業4年後の今、一線を越える関係になってしまった。しかし――ここで止まっているわけにはいかない。紫微垣としての使命を果たさねば! 地を蹴って突進すると、七星剣を変形させた。水色の星鏡が煌めく。
「三の秘剣・三連突き!」
殺傷力の強い三連撃の秘剣である。狙うは――デネボラの右腕だ。
「きゃああ!!」
ゴキッという手応えがあった。腕を折ることに成功した。コラプサーは彼女の右手から離れ、後方に吹き飛んだ。
「カストル、これが一緒に戦ってくれるメンバーか」
自分たちとほとんど年が変わらない。考えてみると、今回の戦いは子供の武装蜂起に対し無関心な大人たちという構図である。それを止めるのが、19歳という子供と大人の間にいる自分たちの世代であることは、何か意味があるかのように感じた。
「じゃあ、具体的な作戦を説明するぜ」
警備兵とポルックスは、北辰の祠を囲むように守る。防衛陣は二列で、前はカストル、後ろはポルックスが指揮を執る。アルクトゥルスも最初は北辰の祠で待機する。
敵が出撃した頃を見計らって、アルクトゥルスは間道を通って敵軍の背後に回る。そして、敵将であるレグルスを討ち取る。大将は陣の中央最後列に配置されるのが定石だ。そこから北辰の祠までの坂を駆け上がり、レグルスの首か遺体を見せつける。
「それで奴らは戦意を喪失するはずだ」
「しなかったら?」
水をさすようにポルックスが言った。
「その時は消耗戦になる。が、こっちには紫微垣がいるからな。勝てるさ」
やれやれ、と言わんばかりにポルックスは祠の横にある椅子に座った。そういえば、この男は警備兵ではなく文官のはずだ。なぜ、この場にいるのだろう?
そんなことを考えるアルクトゥルスの表情を読み取ったのか、ポルックスが言った。
「理由は三つある。一つ、じじいどもの無責任さが気にくわないこと、二つ、文官でも有事の際は戦えると思い知らせること、三つ…」
ポルックスは珍しくにやっと笑った。
「お前らを放っておけないことだ」
日付が変わって3時間――斥候チームから報告が届いた。
「盗賊団、武曲の祠に集まっています」
人数はやはり200人はいるらしい。カストルはアルクトゥルスに目配せした。
「頼むぜ、アルク。武運を」
「ああ、任せろ。武運をな」
お互いにその言葉だけをかわすと、アルクトゥルスは西に向かって走り出した。30分後には破軍の祠から1km離れた地点に到着した。
近くの岩の隙間に身を潜めていると、少し離れた所からガサガサッという足音がして、北に向かっていくのを察知した。人数はおよそ20人前後――作戦通りである。
敵軍をやり過ごした後、アルクトゥルスは岩の隙間から出て、再び走り出した。10分後、破軍の祠にたどり着き、そこから東に走り出した。
走りながら、アルクトゥルスの胸にいろいろな思いが去来する。
紫微垣を継承した15歳。同級生たちと一緒に過ごした夏休み、失恋、集団自殺した子供たち、三羽ガラスの誓い――その4年後の今、かつての恩師が暴挙を起こし、そしてかつての想い人が心に傷を負っていた。親友2人とともに誓いを果たそうとしつつも、レグルスとデネボラのことが頭を離れなかった。
「!?」
アルクトゥルスは前方に人影を視認した。誰だ?
「アルク…」
朝がまだ明けていないため、暗がりで顔が見えない。が、それは聞き覚えのある女性の声だった。
「…デネボラ?」
アルクトゥルスの前にいたのは――間違いなくデネボラだった。黒いワンピースを着ていて、妖艶に微笑んでいる。そして右手には…あの魔剣・コラプサーが握られていた。
「デネボラ、なぜここに!?」
「ふふふ」
デネボラは自分のワンピースを破り裂いた。下着もなにも着ていない、裸である。
「ねえ、アルク。ひとつになろうよ」
デネボラは大地を踏み込み一気に間合いを詰める。虚をつかれたアルクトゥルスはデネボラに押し倒された。
(しまった……!)
デネボラはアルクトゥルスの体にかぶさり、いきなり唇を重ねてきた。彼女の舌、柔らかい胸、絡んでくる滑らかな脚……妖艶な色欲がまとわりついてくる。アルクトゥルスは失いかけた理性をなんとか呼び戻す。
「デネボラ!!」
強引に彼女を引きはがし、飛び退いて間合いをとる。
「邪魔しないでくれ! 大事な戦いがあるんだ!」
「レグルスのこと? もういいじゃない、あんな男。私と一緒に楽しみましょうよ」
妖しく微笑むデネボラ。その右手を見ると、コラプサーからパリッパリッと黒い稲妻が走っていた。
(…やはり、コラプサーに魅入られていたのか!)
貧民街で再会した時の彼女は、はかなげな雰囲気があった。が、コラプサーと一緒にいるうちに、いつの間にか瘴気にあてられていたのだろう。コラプサーは持ち主の欲望に感応すると言われるが、デネボラの場合は色欲なのだろうか。
デネボラは魔剣を振りかざして突進してきた。アルクトゥルスは七星剣を構え、眼前で受け止める。ガキインという音が未明の闇にこだました。
「くっ……」
アルクトゥルスは手がしびれるのを感じた。細腕の彼女の力とはとても思えない。これもコラプサーの魔力なのか!?
突然、デネボラの手が背中に回り、そのまま抱きついてきた。
「!?」
再び唇を奪われ、息が止まる。
「っは!!」
何とかまた引き剥がして離れる。自分の唇にデネボラの口紅が付いていることに気付いた。
「もう、照れ屋ねアルク。すでに一線越えたのに恥ずかしがらないでよ」
デネボラは赤くにじんだ自分の唇を艶めかしくぬぐう。さらに、一瞬で姿を消したかと思うとアルクトゥルスの顔に股を近づけ、そのまま挟み込んで押し倒した。
「ぐっ!!」
もがくがはがれない。
「やっ…動くと…んっ」
嬌声を出すデネボラ。裸なので感触が直に伝わるのだろう。アルクトゥルスは渾身の力で脱出した。
(はあ、はあ…このままでは僕まで色欲の瘴気に取り込まれかねない)
こんな状況は想像もしていなかった。学舎にいた時は想いを寄せていた女性だ。卒業4年後の今、一線を越える関係になってしまった。しかし――ここで止まっているわけにはいかない。紫微垣としての使命を果たさねば! 地を蹴って突進すると、七星剣を変形させた。水色の星鏡が煌めく。
「三の秘剣・三連突き!」
殺傷力の強い三連撃の秘剣である。狙うは――デネボラの右腕だ。
「きゃああ!!」
ゴキッという手応えがあった。腕を折ることに成功した。コラプサーは彼女の右手から離れ、後方に吹き飛んだ。