Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

奇襲

 アルクトゥルスは、デネボラのそばにそっと近寄った。よかった、気絶しているだけだ。右腕は骨折し、青紫色になって腫れ上がっている。
「治しておいた方がいいな」
 懐から天漢癒の腕輪を取り出した。先代紫微垣・カノープスの時代に作られた治癒の道具である。金色が外傷や骨折、銀色が内患や精神疾患を治す。早速、金の腕輪をはめて彼女の右腕に当てて念じた。すると、腫れと痣が消えていき、元通りの腕に戻った。
「こうしちゃいられない、すぐに武曲の祠に向かわねば…!」
 夜明けまであと1時間もないだろう。が、全裸のデネボラをここに置き去りにするわけにもいかない。アルクトゥルスはデネボラに自分のマントを掛けて抱きかかえ、武曲の祠に向かって走り出した。
 走り去っていく後ろで、地面に突き刺さった魔剣が妖しい光を放ち始めていた――。

「う……」
 デネボラが目を覚ますと、走るアルクトゥルスの腕にお姫様抱っこをされているのに気付いた。
「アルク? 私、どうして……」
「説明している暇はないんだ。早くレグルスのもとに行かないと……」
 デネボラはある程度察しがついた。マントでくるまれているけど自分が裸であること、アルクトゥルスが深刻な表情で走っていること、コラプサーが手元にないこと……。
「ごめんねアルク、私、足引っ張っちゃったよね」
 アルクトゥルスはその言葉に返事をしなかった。確かにそうなのだが、かと言って責める気になれない。自分も欲望の虜になりかけたわけだし、デネボラと一緒にいる期間に彼女の心を癒やすことができなかった。
「もういいよ。ただし、戦いが始まったらもう守れないからな」
 使命を遂行しなければいけない……今のアルクトゥルスにはそれしかなかった。

 武曲の祠に着くと夜が明け始めた。盗賊団のほとんどは北辰の祠に向かったようだ。目の前にいるのはレグルスがいるであろうテントと、護衛の兵が数人だった。
 アルクトゥルスはデネボラをそばの木の陰に座らせた。
「デネボラ、ここにいてくれ。あいつらに見つからないように気をつけて」
 マントをくるんでいるとは言え、デネボラは服を着ていない。もし盗賊団に見つかったら襲われかねないのだ。
「うん……」
 顔を赤らめてはにかむデネボラ。これまで過ごしてきた数日間が、胸の中に去来したのだ。
「気をつけてね。アルク」
「ああ」
 アルクトゥルスは立ち上がると、七星剣を構えて駆け出した。
 盗賊の1人が突進してくるアルクトゥルスに気づいた時、すでに三の秘剣・三連突きが放たれた瞬間だった。
「ぎゃああ!!」
 突然の悲鳴に、防衛部隊がうろたえる。
「何だ!?」
「敵襲か!?」
 武器を取って応戦しようとする者四人を見定め、アルクトゥルスは一の秘剣・魚釣り星で一薙ぎに吹き飛ばした。絶叫しながら宙を舞い、地面に激突する。
「レグルスはどこだ?」
 その場にいた全員がたじろぐ。
「こいつ、紫微垣だぜ!」
「どうするよ!?」
「やっちまえ! 数人で一気にとびかかれば…」
 が、それより早くアルクトゥルスが敵の間をすり抜け、六の秘剣・釣り鐘星で仕留めた。盗賊たちは声も立てられずに崩れ落ちる。
「アルクトゥルス…」
 テントの中から懐かしい声が聞こえる。声の主はゆっくりと出てきた。
「レグルス…」
「もはや言葉での説得は無理だろうな」
 レグルスは仁王立ちで構える。
「それはこっちのセリフだ。あなたとはこんな形で会いたくはなかった」
 七星剣を構え、踏み込もうとした時
「そこまでだ、紫微垣!!」
 背後から叫び声がした。振り向くと、盗賊の1人がデネボラを羽交い絞めにして剣を首に当てている。
「この女がどうなってもいいのか!?」
 しまった! 形勢逆転された!
「ごめんなさい、アルク…」
「その妙な剣を捨てろ」
 ここまできて使命を果たせずに負けるのか…? 悔やみながら目を瞑り、七星剣を手放そうとした。が…
「ぎゃああああ!!」
 アルクトゥルスがハッと目を開けてみると、そこには血まみれの首を持ったデネボラが立っていた。その手には……黒い剣が握られている。
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