Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

報いの瞬間

 もはや息をしなくなった恩師を前に、アルクトゥルスは剣を握りしめた。
「どうしたの、アルク? 盗賊の頭が死んだのよ、喜びなさいよ」
 これを聞き、アルクトゥルスはデネボラに向かって怒鳴った。
「デネボラ!! 一体どういう料簡だ!!」
 嘘を並べ立てて多くの人間を弄び、挙句魔剣で虐殺を繰り返した。彼女をこのままにしていてはいけない。次の犠牲者が出る!
 アルクトゥルスは覚悟を決めた。葬る相手を、恩師からかつての想い人に変えたのだ。
「ふふふ、熱くなっちゃってかわいい。おいで、また一つになろうよ。私を抱いて…」
 妖艶に微笑みながら魔剣を構える。アルクトゥルスはデネボラに向かって駆け出すと、剣を鞭状に変形させた。
「四の秘剣・破十字!」
 七星剣がコラプサーに巻き付く。が、引っ張っても折れない。
(太くて折れないのか!?)
 とっさに後ろに飛び下がり、間合いを取る。師匠であるカノープスですらてこずったとのだ。やはり、一筋縄ではいかない。
 ならば……。
 アルクトゥルスは屈んだ体勢で、七星剣を鞭状のまま突き出した。
「二の秘剣・螺旋昴!」
 自身が最も得意とする技である。これを受けたデネボラは竜巻に巻き上げられたように上空に舞い上がった。
「きゃあああ!」
 その表紙にコラプサーが手から離れた。今だ!!
 落ちてくるデネボラを抱き留めつつ、コラプサーの側面に三の秘剣・三連突きを見舞った。それも三つの突きを一点に集中する応用技である。
 バキイン、という音を立て、コラプサーは真っ二つに折れた。

 地面に降りると、デネボラは正気を取り戻した。
「…アルク? 私、どうしたの?」
 どうすればいいのか。正直に話すか、それとも隠すか…いや、嘘はいけないな。そこで、はたと気が付く。
「デネボラ、どうして僕に嘘をついた? レグルスから暴力を受けたなんて…」
「それは…」
 デネボラはばつが悪そうにうつむく。誰かのせいにすれば、自分の行動を正当化できると思ったのか。
(想像したより、心が幼かったんだな)
 学舎時代は憧れの的だった。が、この戦いを通してそれが虚像だったことが分かってしまった。
 ――憧れは憧れのままの方がよかったかもしれないな。
「ごめんなさい…レグルスの言ったことが本当よ。私を顧みなくなったから暴走しちゃったの」
「彼を愛していたのか?」
「…分からない」
 正直な気持ちだったようだ。正確にはお互いに気持ちが離れて、愛しているかも分からなくなってしまったというものだろう。
「…アルク、私あんなことしてしまったけど…どうすればいいのかな?」
 あんなこととは何だろう? 自分を含め、多くの男と関係を持ったことか、それともコラプサーで人を虐殺したことか?
 アルクトゥルスの腹は決まっていた。自首して刑に服し、罪を償うことだと。今のままでは彼女は人生をやり直すことができない。
 すると、デネボラがそっと抱き着いてきた。
「おい…」
「ごめんなさい、でも、少し人肌が恋しいから…これが終わったら警備兵のところに行って自首するね」
 本人も覚悟を決めたようだ。しばらくしてからデネボラは顔をあげ、微笑んでアルクトゥルスと目を合わせた。その顔は憑き物がとれたような顔である。
 が、突然彼女の表情がこわばった。
「アルク、危ない!!」
 ハッとした瞬間にはデネボラがアルクトゥルスの前に出ていた。その胸には、コラプサーの破片が突き刺さっている。
「デネボラ!!」
 慌てて七星剣で破片を弾き飛ばした。魔剣はジュッと音を立てて消滅した。柄の方はどこにいったか分からない。
 アルクトゥルスは天漢癒の腕輪をはめて、デネボラの治療を始めた。が、治らない。致命傷を負ってしまったのだ。
「…よかった、アルク…無事なんだね…」
「待て、しゃべるな」
 仰向けに倒れたデネボラを抱きかかえる。
「…ふふ…私、紫微垣を守ったんだよね…これで…罪を償えるかな?」
「デネボラ…」
「生まれ変わったら…幸せな結婚をしたいな…」
 それが、彼女の最期の言葉となった。

 アルクトゥルスはレグルスの遺体を抱え、武曲の祠から山道を駆け上がった。やがて見えてきた盗賊団にその遺体をさらしたとたん、盗賊たちは青ざめて散り散りに逃げ去った。
 三羽ガラスと祠を守った者たちは、無事と健闘を称え合った。そして、アルクトゥルスはレグルスとデネボラの真相を話した。
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