Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

五十歳

 レグルスたちの事件の日から31年後。三羽ガラスは北の町の墓地にいた。
「これでいいんだっけか?」
 カストルが他の2人に聞いた。これというのは、レグルスとデネボラの墓標に手向けられた花のことなのだが、なぜか輪飾りにしている。
「お前、いい加減覚えろよ。そこの花びんにさせばいいんだ。そもそも輪飾りにする方が難しいだろう」
「そうか? 俺は輪飾りの方が簡単だぜ?」
毎年やっているこのやりとりを見て、アルクトゥルスは苦笑いした。カストルとポルックスの漫才もどきを40年以上見てきたが、いまだに飽きない。
 花を花びんにさし、お茶やお菓子などの供物を置き、線香に火をつけたら、3人は手を合わせた。
 あの事件から毎年、レグルスとデネボラの命日に三羽ガラスは墓参りをするようになった。恩師が我欲ではなく子供たちの未来を憂えて行動を起こしたことや、あの悲劇的な事件を忘れないためだ。レグルスの墓標から20mほど離れたところにデネボラの墓標は建てられている。レグルスは罪人扱いで、当初は死亡した犯罪者専用の集合墓標に入れる予定だった。が、三羽ガラスの懇願もあり、墓地の端に小さな墓石を設けて弔うこととなった。レグルスと婚約中だったデネボラは、結婚せずに亡くなったため、一緒の墓に入れることがはばかられた。結局、両者は生き方の違いが明確になり、一緒にはなれなかったのだ。デネボラが色欲におぼれてしまったことも、悲劇に一層の拍車をかけた。
とは言うものの一時期はお互いを想い合っていたので、近くに彼女の墓標を設けたのである。霊界ではせめて結ばれて幸せな夫婦になれるように――という三羽ガラスの想いだった。

 され、毎年墓参りの後は、カノープスが住む茶屋で食事をするようにしている。
「あのじいさん、まだ生きているんだな」
「お前、露骨すぎるぞ、その表現……」
 カストルの言葉をたしなめるポルックス。カノープス本人が聞いたら激怒するのではないか……。
「あの方は南極寿星の秘術で寿命を永らえているからな。まだまだ生きていくさ」
 それに、長寿をからかわれても怒らず、「ほっほっほ」と笑うだけだという。
「むしろ、食べ物を落とした時の方が……」
 アルクトゥルスの言葉で、三羽ガラスの顔が青くなる。学舎の最後の夏休み、激昂したカノープスに追い回された記憶は今でも鮮明に残っている。
「それにしても、俺たちも50歳とはな。よくここまで生きてきたぜ」
 カストルが自嘲気味に笑う。
「ふっ、お前はこの中では一番長生きするだろうよ」
 ポルックスが皮肉を言った。
「それぞれ家族も持って、充実した人生を送っているよな」
 アルクトゥルスがお茶を飲みながら言う。3人とも20代後半に結婚した。
ポルックスは役人として堅実にキャリアを積み、来年から北の町の名士として町を治める。子供は3人で、上が男2人、末には最近生まれた女の子が1人いる。
 アルクトゥルスは紫微垣として変わらず使命にまい進している。子供は男3人で、今は皆独立して東の都で働いている。
 カストルだけ子供に恵まれなかった。ただ、仕事は誠実に取り組み、現在は警備兵隊長となっている。
 すると、カストルがずいと首を伸ばした。
「実はな俺、かみさんと話して最近里親になったんだ」
「そうなのか?」
 カストル曰く、北の町の貧民街で生まれた子供たちを里親に出す制度が作られ、応募したのだ。すると、1人の男の赤ちゃんを引き取ることになった。
「その年でゼロ歳から育てられるか? 体力の消耗がすさまじいぞ」
 ポルックスが心配する横で、アルクトゥルスもうなずく。この時代の星の大地では、男性が子育てに参加することは少なかったが、彼ら二人は積極的に子育てにかかわってきた。
「まあ、大変だけどよ、やっぱり赤ちゃんはかわいいからなあ」
 カストルがにこにこと言う。血がつながっていないのに、毎日ほおずりしているという。剃り残しの髭を嫌がられることがあり、奥さんに叱られていることもあるとか……。その子はシングルマザーの女性から生まれたのだが、その母親が産後間もなく亡くなってしまったらしい。それで施設にしばらく預けられていたところ、カストルの夫婦が引き取ったということだ。
「ところで名前は? 新しくつけたのか?」
「いや、その子が持っていた名前をそのまま使うことにした。名前は――シリウスっていうんだ」
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