Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

鬼雨②

「何っ!?」
 地盤が緩んでいたのだろうか――木は根元を剥き出しにして傾き始めた。このままではロープに捕まっている人たちが濁流に落ちる!
「うわああ!!」
「きゃあああああああ!!」
 アルクトゥルスは七星剣を構えた。水色の星鏡が光る。
「五の秘剣・錨星!」
 錨に変形した先端が伸び、ロープをつかみながら落ちようとする人たちに巻き付いた。そのまま引き上げようとしたものの、さすがに十数人ともなると紫微垣の力をもっても難しい。アルクトゥルスは視界に飛び込んできた別の木に、とっさに剣の柄を放り投げた。柄は木にうまいこと巻き付いた。
 アルクトゥルスが剣に念を送ると、錨状になった七星剣が縮み始める。
「すげえな、アルク」
「場数を踏めば、こんなこともできるようになるさ」
 感心するカストルに、アルクトゥルスは事も無げに返す。とりあえずあの人たちは救出できるだろうが、七星剣を手放してしまっているのが不安だった。
「お父ちゃん!」
 かわいい声に振り向くと、3、4歳くらいの男の子がいた。
「シリウス!」
 カストルは慌てて駆け寄る。そしてしゃがみ込んで「ここに避難してきたのか? 母ちゃんはどうした?」と話しかける。
――あれがカストルの養子か。
 天涯孤独の赤ん坊の里親になったと言っていたが、もうあんなに大きくなったのか。ポルックスの末の女の子も同じ年だったかな。そんなことをつらつらと考えていた時――

 ボゴオン

 という轟音がした。次の瞬間、地面が割れて崩れた。
「!!」
「父ちゃん!!」
 ちょうどカストルとシリウスがいた付近に亀裂が入り、2人は崖の下に落ちていく。
「カストル!」
 アルクトゥルスが慌ててのぞき込む。すると、カストルが左手で斜面から突き出た木の根っこを、右手でシリウスを抱えていた。その下は激しい濁流である。落ちたら助からないだろう。
「うおっ!」
 カストルの左手がガクン、と揺れる。つかんでいた根っこが滑る。このままでは左手が離れるのは時間の問題だった。
「カストル、待ってろ! 今助けに……」
 アルクトゥルスはハッとした。しまった、七星剣を手放していた! 引き上げられてくる人々を見ると、あと5分はかかりそうだ。しかし、カストルの左手はどんどん滑り落ちていく。このままでは――!
「カストル、つかまれ!!」
 アルクトゥルスは精一杯手を伸ばした。が、両手がふさがりなすすべがない。するとカストルがにやっと笑った。
――え?
 アルクトゥルスは耳を疑った。おい、今何て言った?
 ――シリウスを頼む。
 お前、まさか……!!

「父ちゃん、怖いよう……」
 シリウスはカストルの右手に抱えられ、涙目になっている。下の濁流が恐怖をさらにあおった。が、カストルは不敵に笑っている。
「怖いかシリウス、そうだよな…だけどよ、お前は強くて優しい子だから、父ちゃんがいなくても大丈夫だよな」
「父ちゃん…?」
 不安そうなシリウス。カストルの左手がどんどん滑り落ちるのが見えた。
「父ちゃんは血のつながった子供に恵まれなかったけど…お前のおかげで父ちゃんになれた。子育てってのは一生の宝だよ、ありがとう……」
 カストルは右手に力を込める。
「シリウス、父ちゃんを信じろ。強く生き抜けよ」
 次の瞬間、カストルは「うおおおおお!」と叫び、シリウスを渾身の力で崖の上に投げた。同時に左手が完全に根っこから外れ、自身の体を宙におどらせた。シリウスが崖の上まで届いたのを見届け、カストルは笑いながら濁流に落ちていった。
「父ちゃーーん!!」
「カストルーー!!」
 最愛の父を、そして親友を失った声が、鬼雨の中に空しく響いた。
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