Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

鬼雨①

「…突然降り始めたな」
 アルクトゥルスが庵から空を眺める。突然、太陽が雨雲に隠れて風雨に見舞われるようになった。これだけ降ると天変地異を疑うのだが、盗賊の気配はしなかった。しかし、風雨がかなり強く、足音を聞き取れなかった可能性もある。
 今日は胸騒ぎが治まらず、アルクトゥルスは七星剣を手に取り、北辰の祠に向かった。武曲の祠から山道を登り、祠に着くと――そこには3人の怪しい人影があった。
「おい、何をしている!!」
 アルクトゥルスは一の秘剣・魚釣り星で盗賊3人を蹴散らした。吹っ飛んだ3人は、そのまま崖下の海に落ちていった。
「ポラリスは……!」
祠の近くに転がっている。アルクトゥルスは慌てて拾い上げ、元の台座に戻した。ポラリスがぴったりと収まると、風雨が弱くなり始めた。
警戒していたが、盗賊の足音を聞き取れなかったことはうかつだった。年齢のせいもあるのだろう、耳が遠くなったのだ。50代になり、身体能力も機能も衰えてきている。やはり、早く後継者を見つけなければ……。
 とりあえずポラリスが盗まれなかったことにほっとした。が、それも束の間、南の方に目をやると――東の都辺りにどす黒い雲が立ち込めている。嫌な予感がして、アルクトゥルスは山を一気に駆け下りた。

 岩屋に戻ろうと走っていると、偶然ポルックスと会った。
「アルクトゥルス!」
「ポルックス!」
 お互いに名前を叫ぶが、今は再会を喜んでいるひまがない。
「東の都…!」とアルクトゥルスが言うと、
「ああ、鬼雨が発生したようだ! これから救援隊を派遣する!!」
「なんてことだ…!」
 走り出しながら話す。ポラリスが少し台座から外れただけでこのありさまだ。アルクトゥルスは自分の不注意でもあると反省した。
「ったく、盗賊ってヤツは何で同じ過ちを繰り返すんだ。過去にどれほど自然災害が起きても、まったく学ぼうとしない」
 ポルックスが珍しくいらだっていた。
 アルコル、フォマルハウト、カノープスの代でもポラリスを盗もうとした者が多くいた。私欲に負けた者、くだらないプライドで盗みに走った者、身勝手な正義を大義名分にした者――しかし、記録にある通り、いずれもろくな結果にならなかった。40年前の少年たちやレグルスだってそうだった。
「とりあえずここで別れよう。私は役場に行って指揮を執らなければならない」
「分かった、私は先に東の都に行く」
「カストルのバカに合ったら伝えてくれ。災害救助も警備兵の仕事だ、しっかりやれよとな」
 2人は別れて、別々の方角に走った。
 アルクトゥルスは走りに走り、岩屋の先にある町の最南端にたどり着くと、七星剣を構えた。
「五の秘剣・錨星!」
 七星剣が錨に変形し、先が南の島めがけて発射された。対岸――と言っても、3,40kmはあるが、大木に巻き付いた手応えを確認すると、地を蹴って身を躍らせた。

 アルクトゥルスの身体は、七星剣に導かれて南の大地に向かう。空を切るようにすさまじいスピードで飛んでいく。南の島が視認できる距離になると、風雨が強くなってきた。七星剣を持つ手がじりじりと痛んでくる。
 何とか対岸に着き、空を見上げるとスコールが滝のように降ってきていた。北の町とは雨量が桁外れである。たたきつけてくるような雨をやり過ごし、アルクトゥルスは東の都を見下ろせる高台まで来た。
何ということだ、町の一部か冠水して家が流されている――! 想像以上の大災害となってしまった。
「アルク…アルクか!?」
 自分を呼ぶ声がした。30mほど離れた大木のそばに、1人の男が立っている。豪雨の中で目を凝らしてみると――三羽ガラスとして長く付き合ってきた親友の姿がそこにあった。
「カストル!!」
 駆け寄って手を差し出し、握手をしようとした。が、カストルは何かを引っ張るような姿勢のまま動かない。彼の手元を見てみるとロープがあり、その先に十数人の人間がいた。その下は濁流である。高台にある木にロープをくくりつけ、避難してきた者たちがそのロープを握って急勾配の坂を登ろうとしていたのだ。
 アルクトゥルスは事情を察知し、カストルに手を貸すことにした。避難者たちは木に巻き付いたロープを登ってくればいいのだが、風雨が激しくてロープが左右に激しく揺れる。加えて坂は土砂崩れによって足場が悪く、ずるずると滑る有様だ。
 アルクトゥルスはカストルが持っていたロープを持とうとした。が、避難者の表情が疲弊しきっているのを見て、体力も握力も限界に来ていると察した。
 すると突然、その木が根元からメキメキッと倒れたのだ。
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