Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

次世代に託す希望

 鬼雨が収まって1週間。アルクトゥルスとポルックスは東の都の城にいた。被害の全容を把握し、事後処理を手伝うためだった。
「そうか……」
 カストルの行方は未だに分からなかった。が、アルクトゥルスがあの濁流にのまれた瞬間を見ているため、未帰還扱いとなったのだ。彼の妻は避難中に洪水にのまれたという情報があり、もはや希望はないという見解が強かった。
 シリウスはしばらく城の保育施設に預けられたが、ずっと置いておくわけにはいかず、北の町の孤児院に引き取られることになった。これはアルクトゥルスにとっては都合が良かった。亡き友の忘れ形見を後見したい気持ちがあり、近くで見守ることができればと思っていたのだ。
さらに数日後、アルクトゥルスはアルデバラン王に謁見した。カストルの形見である日記などを引き取るためである。
「紫微垣のそなたとカストルが友人だったとはな。彼の遺品なら詰め所にあるだろうから、持って行くがよい」
「はっ」
「しかし、なぜわざわざ遺品を取りにきたのだ? 彼はあまり形見になるような品を持っておらぬようだぞ」
「よいのです。私はカストルを思い出にするためではなく、彼の遺志を引き継ぐためにきたのです」

詰め所にいくと、一つの箱が用意されていた。ペンが数本とノートが数冊あった。
「隊長はこんなものしか持っていませんでしたよ。いいのですか?」
「ああ、いいんだ」
アルクトゥルスは箱の中のノートをペラペラとめくる。カストルの丁寧な字とイラストがいくつもあった。そしてその中に、「こぐまプロジェクト」と表紙に書かれたノートがあった。
 ページをめくってみると、子どもが無償で食事ができる食堂、読み聞かせによる情操教育、希望者には無償で勉強や職人の技術を教えるアイデアが書かれている。最初の日付は4年前だった。
 三羽ガラスで最後に会った後から、少しずつアイデアを書きためていたのだろう。「熊はそんな子育てしないだろう」とネーミングに呆れていたが、そのアイデアの素晴らしさは本物だったのだ。
 アルクトゥルスはこの時、二つの誓いを立てた。一つは「こぐまプロジェクト」のノートを岩屋の庵に持ち帰り、何らかの形で実現させること。もう一つは、カストルの忘れ形見であるシリウスを、いつの日か紫微垣にすること。
カストル、お前の志は私が受け継ぐ。見ていてくれ……。

****

 それから11年後――ポラリスが学舎の不良少年3人に盗まれるという事件が起きた。60代半ばになったアルクトゥルスは、その盗難に対応できなくなっていたのだ。現場に駆けつけると、そこには1人の少年がいた。見覚えがある……あの鬼雨の日、カストルが命と引き替えに助けた子供。貧民街の孤児院に預けた。里親の愛情を失ったこの11年で、盗みをするほどゆがんでしまったのか?
しかし、その少年に近寄って前髪をつかんでその目を睨んだ。透き通るような彼の目を見た時、アルクトゥルスは思った。

――カストル、お前が愛情をかけた息子は、この大地を救うかもしれん。

 アルクトゥルスは集まった民に言った。
「皆さん、この男はわしに任せてもらえないか?」
 そして心の中で叫んだ――カストル、紫微垣に育ててみせるぞ!

 こうして、ポラリスを守る使命は次世代の紫微垣・シリウスに引き継がれていくことになる――。


END
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