Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

裏切りの酒

「うわああん、うわああん!」
「うるさい、早くだまらせろ!!」
「そんな、あなた……ベテルギウスはまだ子供なのよ」
「うるさくて眠れないだろうが! 母親のお前がしっかりしないから…!」
「わああああん!」
「うるさいと言っているだろうが!!」


 ベテルギウスはハッと目を覚ました。東の都のはずれにある小高い丘で、リゲルと野宿をしていた。所持金も少なくなり、宿代を節約するために外で寝泊まりしていたのだ。時刻は夜の一時頃だろうか。シリウスたちが昴の祠で幽霊を見た数時間後である。
(夢か……)
 唇を強くかんだ。血がにじみ出ている。
 夢だったが、過去の記憶だ。父親に怒鳴られた後、拳で殴られた。物心ついたときからそんな状態だった。
 父親は役場に勤めていた。実直な性格で人望もあったらしい。が、それは外面が良かっただけだったと母親から聞いている。母親がベテルギウスを妊娠したころから態度が冷たくなり、暴言や暴力が増えていった。
(俺が生まれたら変わってくれると信じていたって言ってたな)
 しかし、ベテルギウスが生まれてから母親は子供のことで精一杯となり、家を掃除できなくなり、夕食もろくに作れなくなった。当然、父親は顧みられなくなっていった。それに腹を立てた父親は、母親への暴言と暴力を加速させていった。3歳になるまでは、母親だけがターゲットだったが……

 ガシャン

 と、花瓶を倒して割ってしまったことを機に、父親は自分にも暴力をふるうようになった。顔を殴られ、腹を蹴られた。世間体を気にして病院に連れて行ったとき、父親は「いたずらしてよく怪我するんです」と苦笑して言いやがった。
 どのツラが言うか!? 最愛の母親を傷つけられ、無力な自分に暴力をふるい、挙げ句嘘をつく。幼少期にすり込まれた父親への憎悪は、ベテルギウスをいともたやすく人間不信に追い込んでいった。

(あのクソ親父、まだ生きていやがるのか)
 夜空を見上げてふと思った。北の町から異動して別の役場に行ったと、風の噂で聞いた。
 だんだん苛立ちが募ってきたベテルギウスは、「ちくしょう!」と拳を立ててリゲルの頭を殴った。その衝撃でリゲルは飛び起きた。
「な、何だよ!?」
「のんきに寝ているんじゃねえ!! クソが!!」
 完全に八つ当たりである。それにムッとした表情をするリゲル。
「…何だよ、言いたいことがあるなら言ってみろ!!」
 リゲルはさらに頬を殴られて倒れた。
「おい、何か飲み物はねえのか!!」
 ベテルギウスはリゲルの鞄をゴソゴソとあさる。すると、1本の酒瓶を見つけた。
「いいもんあるじゃねえか、俺に隠れて飲むつもりだったのか!」
 ベテルギウスは乱暴にふたを開けると、口にくわえてラッパ飲みを始めた。
「ふん、まあまあな酒だな。これで少しは気が紛れ……」
 突然、言葉が途切れ――ベテルギウスは持っていた酒瓶を落とした。瓶が割れ、中の酒が地面を濡らしていく。
「な、何だこれ……」
「あーあ、だいぶ飲んじゃったみたいだね」
 倒れていたリゲルが立ち上がった。その顔には冷笑が張り付いている。
「てめえ…一体…」
 ベテルギウスは膝をつき、右手で心臓の辺りを抑える。苦しい、胸が焼け付くようだ――。
「あの酒瓶、河豚の毒をたくさん入れていたんだよ。君が見つけたとき、横取りして飲むと思ってね」
「助けて…くれ…」
 充血した目で訴えるベテルギウス。しかしリゲルは、相方の腹を思いっきり蹴り上げた。
「ぐあっ!!」
 仰向けになって転がりながら血を吐くベテルギウス。
「お前にはもううんざりなんだよ。僕を奴隷のようにしか扱わない。もう友人とは思わないから、ここで死んでくれ」
「かは…はあ、はあ……」
 ベテルギウスの呼吸が荒くなっていく。その苦悶の表情をリゲルは一瞥し、吐き捨てた。
「シリウスもだけど、お前もけっこうなお人好しだね。いや、単に頭が悪いだけか。1人で地獄に行きな」
 そう言いながらリゲルは、ベテルギウスの顔を足で踏みつけた。足を上げると、もはや呼吸をしていない亡骸になっていた。
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