Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

奪還、そして異変

「…シリウス、怖い」
「え、ええ……」
 建物の陰から見ていたミラとスピカは息を飲んだ。あんな怖いシリウス、初めて見た。
「殺さないって言っていたけど、大丈夫かな…」
 ミラが本気で心配する。リゲルを見ると顔が青ざめて震えていた。
 紫微垣の使命はポラリスを守ることと、盗まれたら奪還することと聞いている。しかしシリウスは、リゲルが取り落とした荷物には目もくれていない。怒り心頭なのだろう。
 スピカは建物の陰から出た。
「シリウス! リゲルの荷物を取って! その中にポラリスがあるはずよ!!」
 するとシリウスは、リゲルを拘束したまま荷物に近寄り、中を探った。その中から大きな星鏡のようなものが出てきた。ポラリスである。
「……」
 奪還したのに喜んだ様子もない。
「ばかなことをしたな、リゲル。お前らにとっては、ポラリスはたいした価値がないものなのに」
「何だと!? ポラリスを盗んで売れば、かなりの金になるだろう!!」
 リゲルの反論に、シリウスは哀れんだ目で衝撃の言葉を放った。
「それ、でたらめだ」
「は?」
「このポラリスはただの鏡の玉だ。ダイヤモンドのような宝石じゃないし、七星剣の星鏡でもないからたいした金にはならない。秘宝と言われているが、天漢癒の腕輪のような特別な力もない」
「なっ…」
「「えええ!?」」
 リゲルも、スピカもミラも驚いた。北辰の祠に祀られていた秘宝がただの鏡の玉!?
「あの祠の台座にちょうど合う玉を置くことで、天変地異を防いでいたんだ。いわば要石ってやつだ」
 要石とは、地震を治めるために置くとされる石である。日本の各地にも伝承がある。
「このポラリスの形と重さが要石にピッタリだっただけのことだ。アルクトゥルスが、お前らを捕まえた時にさらけ出してやれって言ってたよ。自分のばかさ加減を思い知るためにな」
 リゲルは愕然とした。そんなたいした価値もないもののために、学舎と北の町を追い出され、人殺しをしてしまったのか!?
「リゲル、観念しろ。殺人の罪が加わってしまったが、戻って償いを……」
 しかし、シリウスが最後の言葉が言い終わらないうちに、突然、グラッと地面が揺れた。また地震である。
 しかし、今度のは大きい!!!
 周囲の家々が激しく揺れ、屋内の大きな家具が倒れる音が、通りまで響いてくる。やがて立っていられなくなるほどの揺れとなった。1分、2分経過しても治まらない。5分たってもまだ揺れ続けている。
 シリウスは、しゃがんでいるミラとスピカに近寄って肩を抱き寄せた。通りの中央にいるから落下物や家屋の倒壊は心配ないが、2人とも震えている。
 その時、リゲルは七星剣が緩んだのに気付いた。体をよじってサッと脱出する。
「しまった!」
 リゲルは南の方へ逃げ始めた。北は指名手配が回っていると判断してのことだろう。
「シリウス、どうしよう!!」
 ミラがおろおろしている。ポラリスは奪還したが、リゲルも連れ帰らなければならない。まして、南の方に逃げたとなると……。
 シリウスは、手に持っていたポラリスをスピカに渡した。
「俺はリゲルを追う。お前らはそれを持って宿に戻れ!」
 そう言い残すと、疾風のようにリゲルを追いかけていった。

 リゲルは逃げに逃げ、やがて海岸に着いた。
「ここは……」
 呼吸を整えながら歩き始めた。青い海と白い砂浜、灰色の埠頭が広がっている。
「都の最南端だ。つまりは星の大地の最南端ってことだ」
 振り返るとシリウスがいた。ここまで追ってきたのか。
「しつこいな…ポラリスは奪い返したんだから、もういいだろう」
「よくない。お前も連れて帰る」
「くそっ!!」
 リゲルは海に向かって駆けだした。
「何しているんだ!?」
 焦るシリウス。リゲルは精神が錯乱しているのか、さらに逃げ場のない沖の方に走っていく。慌てて追いかけ始めたその時――。

 沖の方から黒い壁のようなものがこちらに向かってきた――

 シリウスはとっさに足元を見た。砂浜に貝が多く転がっている。引き潮の時間ではないはずなのに、普段より海面が引いているのか――。
「リゲル、逃げろ!! 大海嘯だ!!」
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