Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―
紫微垣(しびえん)と盗賊
まずは3人で紫微垣に関する資料を調べ始めた。これは、アルクトゥルスだけでなく、歴代の紫微垣が残した本や日記を当たってみた。すると、おおよそ次のようなことが分かってきた。
紫微垣の武器、七星剣は北の町で採掘できる稀少金属・星金と、オーナメントのような鏡の玉である星鏡で構成される。紫微垣の候補者は修行時代は師から七星剣を借りるが、正式な紫微垣になるためには自分で作らなければならない。設計図の類いはなく、師から伝授されるものでもない。瞑想を繰り返し、自分の頭に設計図を浮かばせて作るそうだ。
しかし、その七星剣にも耐性に限界がある。一定の回数を使うと壊れるのだ。その後は、星金も星鏡も大地に還り、時を経て再び七星剣の材料になる。
アルタイルとの戦いで壊れたのは、使用回数が限界に達していたからかもしれない。
「ずっと使えるわけじゃないのね」
スピカが興味深そうに言った。一方、シリウスは唖然としている。
「頭に浮かぶ設計図って…そんなことできるのか?」
珍しく弱気である。師を失い、紫微垣を継承する者が自分だけになってしまったのだ。相当なプレッシャーだろう。
すると、スピカがシリウスの背中を優しくなでた。
「大丈夫、シリウスならできるわ」
彼女の穏やかな微笑みのおかげで、不安がいくぶんか和らぐ。
「そうだな、やるしかないんだ…」
秘剣については、次のようなことが分かった。七つの技があるというのが表向きで、実は八番目の秘剣があるらしい。
その秘剣は「北落師門」という。ちなみにこれは、南の魚座の一等星の中国語名である。
「どういう技なのかしら?」
しかし、その記述のある資料はまだ見つけられていない。
最後に、歴代の紫微垣について。
この星の大地は、昔から天変地異にみまわれて人々は苦しんでいた。が、今から450年前に、初代紫微垣が神から啓示を受け、ポラリスを北辰の祠に奉納して天変地異が治まったという。その初代紫微垣の名をアルコルといった。その後、300年近く紫微垣は不在だったが、疫病がはやった頃にある男が紫微垣となり、収束させた。その二代目紫微垣はフォマルハウトという。さらに、フォマルハウトは紫微垣を継承させるために育成機関を作り、三代目のカノープスに引き継がせた。その次がアルクトゥルスになる。いずれの時代にも、大海嘯や疫病、鬼雨といった自然災害があった。
「450年の歴史の中で、たった4人なんだ…」
ミラが独り言のように呟く。意外にもその歴史は浅いようだ。
次に盗賊のことを調べてみた。
盗賊は、ポラリスが奉納されてからというもの、たびたび狙いに来たようだ。鏡面加工された金属なだけで、希少価値で言えばダイヤモンドのような宝石の方が上になる。しかし、天変地異を鎮める秘宝ということで噂に尾ひれ背びれが付き、豪邸が買えるだの一生遊んで暮らせるだのという話にふくれあがったようだ。そのため、未だに盗みをしようとする輩があとを絶たない。
(ベテルギウスたちもそうだった。まあ、俺も最初は乗せられたんだが…)
盗みは単独犯行から始まり、徐々に組織的なものになっていった。いずれにしても、ポラリスを盗みに来る者をまとめて盗賊と呼んでいる。
そしてアルタイルのことを見つけた。アルクトゥルスの日記からだ。日付は4年前になっている。
〈○月×日、アルタイルがいなくなった。突然のことだ。修行中も弱音を吐き、やめたがっていた。無理に追うことはできない。彼の幸福を祈るばかりだ〉
そこには、修行中に突然いなくなってしまったことが書かれていた。それでもアルクトゥルスはアルタイルを責めることをせず、ただ幸福であるよう祈っていたのだ。
そしてその日から前のページを遡ると、アルタイルの修行が進まないことが記載されている。口ではかっこいいことを言っていたようだが、結局挫折したようだ。
「あいつ、よほど根性なかったんだね」
ミラが呆れる。
「でも、コラプサーって魔剣を見つけて力を得たのよ」
力というものは、本来努力して得るものだ。それを魔力や誘惑によって得たらどうなるか……。残忍なふるまいをしたアルタイルを見てよく分かった。
「それにしても、これ以上は分からないかな」
ミラが呟く。
「もう少し調べればできるかも……」
スピカが答える。が、読めた資料は1/4にも満たない。まだまだ時間がかかる。
「あーあ、誰か紫微垣のことサクッと教えてくれないかなあ」
ミラが積んでいた本に寄りかかる。すると、バランスを崩して机がバサバサっと落ちてしまった。
「ちょっとミラ! それまだ読んでいないのに!!」
「ぎゃーごめんなさい!!」
スピカが叱ると、ミラは慌てて片付ける。すると、そこに手紙がいくつか挟まっているのに気付いた。
「何これ?」
「見せてみろ」
シリウスは受け取り、封書の中身を取り出した。10通くらいあったが、誰かとの書簡のようだ。そこに書かれている相手の名前を見て、3人は驚いた。
「カノープス?」
「え? 三代目の紫微垣!?」
「でも、彼は故人のはずでしょう? 昔のかしら?」
それにしては封筒が傷んでいない。日付を見ると、1年前になっている。
「ちょっと待って、資料にあった生年月日からすると、この人…」
スピカが計算してみると…
「150歳!?」
「なんだって!?」
シリウスも思わず大声を上げた。
紫微垣の武器、七星剣は北の町で採掘できる稀少金属・星金と、オーナメントのような鏡の玉である星鏡で構成される。紫微垣の候補者は修行時代は師から七星剣を借りるが、正式な紫微垣になるためには自分で作らなければならない。設計図の類いはなく、師から伝授されるものでもない。瞑想を繰り返し、自分の頭に設計図を浮かばせて作るそうだ。
しかし、その七星剣にも耐性に限界がある。一定の回数を使うと壊れるのだ。その後は、星金も星鏡も大地に還り、時を経て再び七星剣の材料になる。
アルタイルとの戦いで壊れたのは、使用回数が限界に達していたからかもしれない。
「ずっと使えるわけじゃないのね」
スピカが興味深そうに言った。一方、シリウスは唖然としている。
「頭に浮かぶ設計図って…そんなことできるのか?」
珍しく弱気である。師を失い、紫微垣を継承する者が自分だけになってしまったのだ。相当なプレッシャーだろう。
すると、スピカがシリウスの背中を優しくなでた。
「大丈夫、シリウスならできるわ」
彼女の穏やかな微笑みのおかげで、不安がいくぶんか和らぐ。
「そうだな、やるしかないんだ…」
秘剣については、次のようなことが分かった。七つの技があるというのが表向きで、実は八番目の秘剣があるらしい。
その秘剣は「北落師門」という。ちなみにこれは、南の魚座の一等星の中国語名である。
「どういう技なのかしら?」
しかし、その記述のある資料はまだ見つけられていない。
最後に、歴代の紫微垣について。
この星の大地は、昔から天変地異にみまわれて人々は苦しんでいた。が、今から450年前に、初代紫微垣が神から啓示を受け、ポラリスを北辰の祠に奉納して天変地異が治まったという。その初代紫微垣の名をアルコルといった。その後、300年近く紫微垣は不在だったが、疫病がはやった頃にある男が紫微垣となり、収束させた。その二代目紫微垣はフォマルハウトという。さらに、フォマルハウトは紫微垣を継承させるために育成機関を作り、三代目のカノープスに引き継がせた。その次がアルクトゥルスになる。いずれの時代にも、大海嘯や疫病、鬼雨といった自然災害があった。
「450年の歴史の中で、たった4人なんだ…」
ミラが独り言のように呟く。意外にもその歴史は浅いようだ。
次に盗賊のことを調べてみた。
盗賊は、ポラリスが奉納されてからというもの、たびたび狙いに来たようだ。鏡面加工された金属なだけで、希少価値で言えばダイヤモンドのような宝石の方が上になる。しかし、天変地異を鎮める秘宝ということで噂に尾ひれ背びれが付き、豪邸が買えるだの一生遊んで暮らせるだのという話にふくれあがったようだ。そのため、未だに盗みをしようとする輩があとを絶たない。
(ベテルギウスたちもそうだった。まあ、俺も最初は乗せられたんだが…)
盗みは単独犯行から始まり、徐々に組織的なものになっていった。いずれにしても、ポラリスを盗みに来る者をまとめて盗賊と呼んでいる。
そしてアルタイルのことを見つけた。アルクトゥルスの日記からだ。日付は4年前になっている。
〈○月×日、アルタイルがいなくなった。突然のことだ。修行中も弱音を吐き、やめたがっていた。無理に追うことはできない。彼の幸福を祈るばかりだ〉
そこには、修行中に突然いなくなってしまったことが書かれていた。それでもアルクトゥルスはアルタイルを責めることをせず、ただ幸福であるよう祈っていたのだ。
そしてその日から前のページを遡ると、アルタイルの修行が進まないことが記載されている。口ではかっこいいことを言っていたようだが、結局挫折したようだ。
「あいつ、よほど根性なかったんだね」
ミラが呆れる。
「でも、コラプサーって魔剣を見つけて力を得たのよ」
力というものは、本来努力して得るものだ。それを魔力や誘惑によって得たらどうなるか……。残忍なふるまいをしたアルタイルを見てよく分かった。
「それにしても、これ以上は分からないかな」
ミラが呟く。
「もう少し調べればできるかも……」
スピカが答える。が、読めた資料は1/4にも満たない。まだまだ時間がかかる。
「あーあ、誰か紫微垣のことサクッと教えてくれないかなあ」
ミラが積んでいた本に寄りかかる。すると、バランスを崩して机がバサバサっと落ちてしまった。
「ちょっとミラ! それまだ読んでいないのに!!」
「ぎゃーごめんなさい!!」
スピカが叱ると、ミラは慌てて片付ける。すると、そこに手紙がいくつか挟まっているのに気付いた。
「何これ?」
「見せてみろ」
シリウスは受け取り、封書の中身を取り出した。10通くらいあったが、誰かとの書簡のようだ。そこに書かれている相手の名前を見て、3人は驚いた。
「カノープス?」
「え? 三代目の紫微垣!?」
「でも、彼は故人のはずでしょう? 昔のかしら?」
それにしては封筒が傷んでいない。日付を見ると、1年前になっている。
「ちょっと待って、資料にあった生年月日からすると、この人…」
スピカが計算してみると…
「150歳!?」
「なんだって!?」
シリウスも思わず大声を上げた。