Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―
紫微垣の試練⑦――嫉妬
「スピカ、もういい。こいつも悪気があったわけじゃない」
シリウスが泣いているミラをかばう。
「でも……!」
スピカは顔をゆがめた。勝手なことをしたミラ、それをかばうシリウス……これじゃ私が悪者みたいじゃない!
「大丈夫だって、ほら。星鏡は入手した。おまけにこの炭、何かに使えそうだ」
「炭?」
「ああ、玉がはまっていて取れないんだ。もしかしたら、七星剣を作るのに役立つのかもしれない」
星鏡、それに何かに使えそうなものを入手できた。しかし、スピカの腹の虫は治まらない。
「ミラ、あなた先に次の祠に行って」
「え、でも……」
「いいから!!」
戸惑うミラに対して大声を上げるスピカ。ビクッとなったミラは肩を落とし、しぶしぶ次の兼貞の祠へと、1人で行くことにした。七星剣は錨星のまま彼女に巻き付いたままだ……。
「…スピカ、どうしたんだ? 行くんだったら3人で行けばいいだろう?」
シリウスは呆気にとられた。いつも理論的でクレバーな判断をするスピカらしくない。するとスピカは、口を結びながら涙目になってにらんできた。こんな表情になっても美人なのだからすごい。
「あなたもあなたよ、シリウス! 紫微垣の試練を乗り越えられなければ、最後はポラリスを奪われるのよ!!」
それはそうだが、かと言って変に力んでは力が出せない。シリウスは、こういう時も平常心を保つように、師であるアルクトゥルスから指導されてきた。
「スピカ、お前変だぞ。落ち着けよ」
「――もう、ばかっ!!」
スピカはシリウスに駆け寄って抱き着き、押し倒した。そして強引に唇を重ねる。
「――っ!!」
スピカの舌がシリウスの前歯に当たった。不意打ちをくらい、動揺を隠せない。
「スピカ?」
シリウスはスピカの肩に手を置き、どうにか起き上がった。
「……ごめんなさい」
スピカは顔を真っ赤にして俯く。そしてポツリと言うと、シリウスの体から離れた。
(私……たぶん嫉妬しているのよね)
天漢癒はミラの出番が多い。それだけではなくシリウスの体に触れる機会も多いのだ。禄存の祠で優越感を感じたのも、嫉妬心からである。
そんな自分のもやもやした気持ちに整理がつかず、衝動的なことをしてしまった。
「と、とりあえず次の祠に行こう」
その道すがら、スピカはシリウスの腕に自分の腕を絡ませていた。3人並んでいる時ではべったりくっつく隙がなく、周りの目も気になるため、なかなかできないのだ。
ミラはそんなことにも臆せず、シリウスに引っ付いてくるのだが。
「あのさ、スピカ」
「何?」
「歩きにくいんだが……」
シリウスが顔を赤らめながら言う。
「嫌なの?」
「嫌じゃない…ただ歩きにくいだけ……」
スピカは構わず体を押し付けてくる。胸が二の腕に当たる。
そうこうしているうちに、次の祠――兼貞の祠に着いた。ミラに見つかると気まずいので、とりあえず2人は離れた。
紫微垣の試練は貪狼の祠から始まったが、集合したのはこの兼貞の祠だった。言わば、スタート地点である。
「シリウスー! スピカ先輩―!」
先に着いていたミラが、茶屋でおやつを食べている。どうやらご機嫌のようだ。
シリウスもスピカも、先の出来事の後だったから少し気まずい雰囲気だったが、ミラの笑顔がそれを吹き飛ばしてくれた。2人とも胸をなでおろす。
そのミラの横から、小さい影が近づいてきた。カノープスだ。手に七星剣を持っているところを見ると、ミラから受け取ったのだろう。
「カノープス師匠!」
シリウスは叫んだ。中間報告をしようと思ったのである。しかし、カノープスはその声に反応せず、なぜかいきなり走り出してきた。
「三の秘剣・三連突き!」
持っていた七星剣を槍に変形させたカノープスは――なんとシリウスに突進してきたのだ!
「うわあっ!」
すんでのところで回避する。青ざめたシリウスがカノープスを見ると、あの好々爺の顔が憤怒の形相になっていた。少なくなった髪の毛は逆立ち、まるで地獄の鬼である。
「なっ……カ、カノー……」
「……聞いたぞ、わしの弁当を地面にぶちまけたそうだなああああああああああ!!!」
小柄な体から怒りの炎が立ち上っているようだ。どうやら禄存の祠でのことを、ミラが話したらしい。
「す、すまん、カノープス師匠! でも、あれはわざとじゃなくフォマルハウトの不意打ちが……」
シリウスが弁解するとカノープスは飛び上がり、七星剣で脳天をポカポカと叩いてきた。
「言い訳するな! お前が悪い! 全部お前が悪い! お前がたるんどるから、弁当を落とすなんてヘマをやらかすんじゃ! あれを作るのにどれだけ時間をかけたか分かっておるのかあ!!」
「あたっ、たっ!! い、いやしかし……」
「そこに居直れえええ!!」
「うわあああああっ!!」
カノープスは七星剣をもってシリウスを追いかけ始めた。魚釣り星、三連突き、釣り鐘星と、殺傷能力の高い技を連続で繰り出してくる。いつもはクールなシリウスも必死の形相で逃げ回るしかなかった。そして走りながら、フォマルハウトが言っていた「謝っておいてくれ」というのはこのことだったのかと察した。
「…これも紫微垣になるための試練なんだね…シリウス、がんばって!」
「いや、違うでしょ」
ミラの天然なつぶやきに、スピカが冷静に突っ込んだ。
シリウスが泣いているミラをかばう。
「でも……!」
スピカは顔をゆがめた。勝手なことをしたミラ、それをかばうシリウス……これじゃ私が悪者みたいじゃない!
「大丈夫だって、ほら。星鏡は入手した。おまけにこの炭、何かに使えそうだ」
「炭?」
「ああ、玉がはまっていて取れないんだ。もしかしたら、七星剣を作るのに役立つのかもしれない」
星鏡、それに何かに使えそうなものを入手できた。しかし、スピカの腹の虫は治まらない。
「ミラ、あなた先に次の祠に行って」
「え、でも……」
「いいから!!」
戸惑うミラに対して大声を上げるスピカ。ビクッとなったミラは肩を落とし、しぶしぶ次の兼貞の祠へと、1人で行くことにした。七星剣は錨星のまま彼女に巻き付いたままだ……。
「…スピカ、どうしたんだ? 行くんだったら3人で行けばいいだろう?」
シリウスは呆気にとられた。いつも理論的でクレバーな判断をするスピカらしくない。するとスピカは、口を結びながら涙目になってにらんできた。こんな表情になっても美人なのだからすごい。
「あなたもあなたよ、シリウス! 紫微垣の試練を乗り越えられなければ、最後はポラリスを奪われるのよ!!」
それはそうだが、かと言って変に力んでは力が出せない。シリウスは、こういう時も平常心を保つように、師であるアルクトゥルスから指導されてきた。
「スピカ、お前変だぞ。落ち着けよ」
「――もう、ばかっ!!」
スピカはシリウスに駆け寄って抱き着き、押し倒した。そして強引に唇を重ねる。
「――っ!!」
スピカの舌がシリウスの前歯に当たった。不意打ちをくらい、動揺を隠せない。
「スピカ?」
シリウスはスピカの肩に手を置き、どうにか起き上がった。
「……ごめんなさい」
スピカは顔を真っ赤にして俯く。そしてポツリと言うと、シリウスの体から離れた。
(私……たぶん嫉妬しているのよね)
天漢癒はミラの出番が多い。それだけではなくシリウスの体に触れる機会も多いのだ。禄存の祠で優越感を感じたのも、嫉妬心からである。
そんな自分のもやもやした気持ちに整理がつかず、衝動的なことをしてしまった。
「と、とりあえず次の祠に行こう」
その道すがら、スピカはシリウスの腕に自分の腕を絡ませていた。3人並んでいる時ではべったりくっつく隙がなく、周りの目も気になるため、なかなかできないのだ。
ミラはそんなことにも臆せず、シリウスに引っ付いてくるのだが。
「あのさ、スピカ」
「何?」
「歩きにくいんだが……」
シリウスが顔を赤らめながら言う。
「嫌なの?」
「嫌じゃない…ただ歩きにくいだけ……」
スピカは構わず体を押し付けてくる。胸が二の腕に当たる。
そうこうしているうちに、次の祠――兼貞の祠に着いた。ミラに見つかると気まずいので、とりあえず2人は離れた。
紫微垣の試練は貪狼の祠から始まったが、集合したのはこの兼貞の祠だった。言わば、スタート地点である。
「シリウスー! スピカ先輩―!」
先に着いていたミラが、茶屋でおやつを食べている。どうやらご機嫌のようだ。
シリウスもスピカも、先の出来事の後だったから少し気まずい雰囲気だったが、ミラの笑顔がそれを吹き飛ばしてくれた。2人とも胸をなでおろす。
そのミラの横から、小さい影が近づいてきた。カノープスだ。手に七星剣を持っているところを見ると、ミラから受け取ったのだろう。
「カノープス師匠!」
シリウスは叫んだ。中間報告をしようと思ったのである。しかし、カノープスはその声に反応せず、なぜかいきなり走り出してきた。
「三の秘剣・三連突き!」
持っていた七星剣を槍に変形させたカノープスは――なんとシリウスに突進してきたのだ!
「うわあっ!」
すんでのところで回避する。青ざめたシリウスがカノープスを見ると、あの好々爺の顔が憤怒の形相になっていた。少なくなった髪の毛は逆立ち、まるで地獄の鬼である。
「なっ……カ、カノー……」
「……聞いたぞ、わしの弁当を地面にぶちまけたそうだなああああああああああ!!!」
小柄な体から怒りの炎が立ち上っているようだ。どうやら禄存の祠でのことを、ミラが話したらしい。
「す、すまん、カノープス師匠! でも、あれはわざとじゃなくフォマルハウトの不意打ちが……」
シリウスが弁解するとカノープスは飛び上がり、七星剣で脳天をポカポカと叩いてきた。
「言い訳するな! お前が悪い! 全部お前が悪い! お前がたるんどるから、弁当を落とすなんてヘマをやらかすんじゃ! あれを作るのにどれだけ時間をかけたか分かっておるのかあ!!」
「あたっ、たっ!! い、いやしかし……」
「そこに居直れえええ!!」
「うわあああああっ!!」
カノープスは七星剣をもってシリウスを追いかけ始めた。魚釣り星、三連突き、釣り鐘星と、殺傷能力の高い技を連続で繰り出してくる。いつもはクールなシリウスも必死の形相で逃げ回るしかなかった。そして走りながら、フォマルハウトが言っていた「謝っておいてくれ」というのはこのことだったのかと察した。
「…これも紫微垣になるための試練なんだね…シリウス、がんばって!」
「いや、違うでしょ」
ミラの天然なつぶやきに、スピカが冷静に突っ込んだ。