Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

油断

 シリウスは、まず狙いをアルタイルに定めて突進した。
「はっ、この前の戦いで懲りてないようだな!! ばかが!!」
 向かってくる青年を罵倒するアルタイル。あの世で師匠に会わせてやる! とコラプサーを顔の前に構えた矢先、その横を縫うように七星剣の突きが迫ってきた。三の秘剣・三連突きである。
「うわっ!!」
 さらにシリウスは穂先を地に突き立て、棒高跳びの要領でアルタイルの上空に舞った。刹那、二の秘剣・螺旋昴がアルタイルを囲むように襲ってくる。
「くそっ!!」
 持ち前のスピードで逃げるアルタイル。が、螺旋昴を脱した相手を六の秘剣・釣り鐘星で追撃する。アルタイルは紙一重でかわすが、七星剣の切っ先が折れ曲がる。1回、2回、3回…! 雑兵に使ったのは見ていたが、まさかこれほどかわしにくいとは!
「ちっ!」
 アルタイルは何とか間合いを取るため、大きく後ろに跳び下がる。入れ替わりでベガが突きを繰り出してきた。シリウスは七星剣を下に構えて捌いた。ベガは切り結んだ剣を横に薙ぐ。が、腕力ではシリウスの方が上である。剣が動かない。
「くっ!」
 ベガは剣を弾き、後ろに跳び下がった。
「何も学んでない? ばかは貴様の方だ、アルタイル」
「何だと!?」
 アルタイルはカッとなって青筋を立てる。しかし、シリウスの目を見て背筋が凍った。先の戦いでは見せなかった殺気が満ちている。その姿は、とても15歳の少年とは思えない。
「あの時の俺と同じと思っているのか? もう一度言う、ばかなのは相手の力量を見抜けない貴様の方だ」
 アルタイルの表情が焦りに満ちている。思ったとおりだった。この男は、その傲慢さゆえに不利になると精神的にもろい。
 一方のベガは落ち着きはらっている。にらんだとおり、一流の剣士の貫禄がある。
 しかし、シリウスは意に介さず七星剣を構え、再び突進した。次はベガに狙いを定める。
「来い!」
 鈴のような凛とした声が響く。シリウスは、七星剣をベガの剣の刃に巻き付けた。
「四の秘剣・破十字!」
 鋭く巻き付き、ボキンッという音を立てて剣が折れ、ベガを蹴りで吹っ飛ばした。ベガは宙を舞い、30メートルほど先の地面に落ちる。さらにそのままの体勢で、アルタイルに狙いを定めた。
「はっ、俺に破十字は効かねえと言ったろうが!」
 アルタイルがあざ笑う。が、その表情に余裕はない。
「知っているさ」
 アルクトゥルスが身を犠牲にして教えてくれた。コラプサーは破十字では折れない。シリウスが狙ったのは――アルタイルの手足だった。
「なっ!?」
 わずか1秒ほどで、アルタイルの両腕両脚が七星剣に拘束される。シリウスが渾身の力で剣の柄を引くと、耳障りな音を立てて骨が折れた。その手から魔剣がスルリと落ちる。
「ぐわあああっ!!」
 たまらずアルタイルはその場に崩れ落ちた。俊敏さを強みとするアルタイルからすれば、脚を折られたら致命傷に等しい。
「破十字が武器を折る技と思い込んだお前の負けだ」
 シリウスの言うとおり、破十字を発動させた時、アルタイルはたかをくくって身構えもしなかった。相手を侮ったことが、自らの不利を招いたのだ。
「こ、こんな……」
 愕然して跪くアルタイルに、シリウスは厳しい口調で言い放つ。
「アルタイル、降参しろ。貴様はもう戦えない。その気になればここで殺すことはできる。が、紫微垣はなるべく殺生はしない」
 本来ならアルクトゥルスの仇を討ってもよいはずである。しかし、シリウスは紫微垣としての姿勢を優先させた。ポラリスを守れればそれでいいのである。

「う……」
 ベガは少しの間、気を失っていた。目を覚ますと、アルタイルがうずくまり、シリウスが七星剣を構えている。絶体絶命なのは明白だった。
 ふと、コラプサーが離れた場所に落ちているのが見えた。それに気付くと、ベガはシリウスに気付かれないように体を起こし、地を踏み切る。
「シリウスー!」
 ミラの声でハッとした。が、時既に遅く、ベガがコラプサーを手にしたのが目に入った。
 それに気付いたアルタイルはほくそ笑んだ。
「ベガ! 命令だ!! こいつを殺せ!!」
 してやったりという表情だった。形勢逆転である。しかし、次の瞬間、予想外のことが起こった。
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