Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

弱虫アルコル

 450年前の東の都。当時から、ここは星の大地で最も栄えた都だった。昼だけでなく夜も賑やかで、人々はその物質的な豊かさを享受していた。
 さて、物語はこの都の一つの学舎から始まる……。

「やーい、弱虫アルコルー!」
 少年少女が、1人の人物を囲んではやし立てる。中央には、一見するとショートヘアの女の子と見間違えそうな少年がいた。
「うえーん、うえーん」
 その少年――アルコルは、両手で目を抑えながら大泣きしている。
「お前、チビだし弱いし、生意気なんだよー!!」
 誰かが突き飛ばし、その拍子にドテッと倒れてしまった。泣き虫で弱虫で体格も小柄、いじめられっ子を絵に描いたようなものである。
 そこに、1人の大人の女性が飛んできた。
「ちょっと、何しているの!?」
「やべ、メグレス先生だ、逃げろ!!」
 いじめっ子たちは蜘蛛の子を散らすように逃げた。
「ひっく、うっく……」
 メグレスは、まだ泣いているアルコルのもとに駆け寄る。眼鏡をかけ、ボブショートの髪型は地味な印象だが、胸が大きくてスタイルが良く、年頃の男子生徒からそこそこ人気がある。
「アルコル君、大丈夫?」
 メグレスは慰めるが、まだ泣いている。女子の平均身長より低く、顔立ちも女の子みたいな男の子。彼女はアルコルの担任だが、このいじめにいつも手を焼いていた。
「ほら、泣かないのよ。もう家に帰りましょうね」
 そう言って帰宅を促した。

 帰宅し、アルコルは玄関の戸を開けた。
「ただいま」
「いったいどこをほっつき歩いていたの!?」
 母親のベナトナシュの罵声が飛んできた。
「だ、だって……」
「だってじゃない! 早く手洗って手伝いなさい!!」
 アルコルは涙をふきながら靴を脱ぎ、夕食の準備を手伝い始めた。母さんはいつも機嫌が悪い。学舎に入ってから、笑ったところを見た記憶がない。
(お父さんが生きていればなあ……)
 アルコルは、記憶にある亡父の面影を思い出していた。アルコルが四歳になる前、父親が亡くなった。そのため、その面影はよく思い出せない。父が亡くなった後、母親のベナトナシュは毎日泣き続けた。
しかし、一時は穏やかだったこともある。知り合った男性と再婚したのだ。その名はアリオトといって、長髪をひもで結んだワイルドなタイプの男だ。が、定職に就かず日雇いの仕事をしてブラブラしている。ベナトナシュもその本性を知り、愛想が尽きているのだが、再婚した世間体もあり、がまんしているのだ。だが、あくまでがまんしているだけで、その鬱憤は息子のアルコルに向けられている。

アルコルは毎日、家族分の朝ごはんを作り、学舎に行く。帰ってきたら文句たらたらの母親の手伝いをする。しかも「何やってるの、下手くそ!!」「ほんとに使えない子だね!!」「目障りなんだよ!!」など、罵詈雑言を浴びせられ続けてきた。
 おかげでアルコルの心は完全に萎縮してしまい、自己肯定感のかけらもない少年になってしまった。そんなビクビクする少年は、いじめっ子たちのかっこうのカモとなる。学舎の学友はアルコルをいじめるか、無視するかのいずれかであった。特にひどいのがドゥベー、メラク、フェクダの3人である。
ドゥベーは大柄で腕力が強い男の子で、いわゆるガキ大将タイプである。勉強はさほどできないがけんかやスポーツでは常に自分が一番でなければ気が済まない。性格は傲慢不遜で、3人のリーダー格であった。アルコルを捕まえては絞め技をかけたり殴りかかったりしてくる。
メラクは女の子で、目がつり上がっていて見るからに気の強そうなタイプである。頭脳明晰なのだが、性格は高飛車でいやなお嬢様というタイプである。家はけっこうな名士であり、わがままし放題なのだ。アルコルには「ドブねずみ」「女みたいで気持ち悪い」など、言葉の暴力が多い。
 フェクダは目によく隈がある少年だった。手先が器用で、裁縫やロープ、工具の使い方がうまい。そのため、アルコルの持ち物を隠したり帰り道に罠を仕掛けたりすることが多いのである。性格は陰険で暗く、他の学友からは好かれていなかった。ドゥベーにはごまをすって上手くやっているが、頭の悪いガキ大将を本心では見下している。
彼らは、学舎の最高学年であるが、下級生のアルコルを容赦なく虐げてくるのだ。
 そんな中で生活するアルコルのストレスは大変なものだが、いつしか「僕の人生はこんなものなんだ」とあきらめるようになった。あきらめれば必要以上に苦しむことはない。自分はだめな人間で、みじめに生きるのが分相応なんだ……。
 彼は、12歳でみじめな人生を生きることを決意したのだった。
 
 しかし――ひとりの男との出会いがアルコルの人生を大きく変え、使命を見出すきっかけとなる。さらにこの後、星の大地の命運を左右する事件が迫っていた。
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