Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―
笑顔
「アルコル、一緒に帰ろうか」
授業が終わると、ミザルはアルコルに話しかけた。クラスじゅうがざわつく。
(あの人、アルコルのことをどう思っているのかしら?)
(クラスのいじめられっ子で、誰も関わりたがらないのにさ)
そんなひそひそ話におかまいなしに、ミザルはアルコルに近づく。しかし、当のアルコルは後ずさりをする。
「な、何で僕と……?」
自分はクラスカースト上位の3人組にいじめられ、クラスでも煙たがれているのである。人間不信になりつつある自分に近づくなど、どういうつもりなのか?
「何となくほっとけないのさ。まあ、つもる話は帰り道でしようかね」
半ば強引にミザルに連れ出され、アルコルは教室を出て行った。
ミザルは天気のことや自分のことを話しながら、時折アルコルに質問をする。アルコルは警戒心がまだ解けず、「うん」とか「そうだね」しか言わない。周りの人間から虐げられてきたことが、アルコルの心に殻を作ってしまったのだ。
さすがにミザルもこのままではいけないと思い、質問を変えてきた。
「君は何か得意なことはないの?」
「え、でも……」
母親のベナトナシュにはいつも「何のとりえもない」となじられている。それはある程度当たっていて、アルコルは勉強もスポーツも苦手なのだ。
「何かあるだろう。絵とか音楽でもいいし……」
すると、アルコルは思い出したように小さくつぶやいた。
「ドライフルーツ……」
「え?」
「ドライフルーツを作るのが得意…」
アルコルは、自分のかばんから小瓶を取り出した。中には干しぶどうや干しりんごが入っている。
「へえ、君が作ったのか。ひとつもらっていい?」
ミザルのお願いにアルコルはこくんとうなずく。
「干しりんご、おいしいね。売れるよ、これ」
女みたいな趣味、とからかわれると思ったのに褒めてくれた。さらに
「僕は特段料理が得意じゃないから、こういうのができる人って尊敬するよ」
尊敬――そんなふうに言ってくれる人は初めてだった。この時、ミザルへの警戒心が一気に薄らいでいった。
2人は毎日一緒に帰り、いろいろな話をした。アルコルが身の上話をすると、「それは大変だったな」と同情してくれた。
また、ミザルの話も聞いた。彼は父親が祠の守り人なのである。守り人とは星の大地の祠を管理する役人で、いわば神社の宮司や寺の住職にあたる。東の都、中つ都にはいくつか祠があり、それぞれ守り人が管理している。3年に一度異動することがあり、今回、ミザルの家は東の都の昴の祠を担当することになった。
そんなこともあり、アルコルは昴の祠にお参りするようになった。それまでいじめられっ子だったこともあり、「神も仏もあるもんか」と思っていたのだが、ミザルと出会い、ドゥベーたちにいじめられることが少なくなった。たまに1人でいる時にはからまれてくるのだが、そんな時でもミザルはすぐに駆けつけて助けてくれる。3人組は、初日に負けたのが効いたのか、ミザルが来るとそそくさと逃げる。
ミザルはアルコルを家に招き、一緒に遊ぶようになった。それからアルコルは笑顔が増え、日々の生活が楽しくなっていった。時折、ミザルの父親が守り人を務める昴の祠にも、一緒にお参りに行った。その境内には、他の学舎にいる少年少女も来ることがあり、少しずつ仲良くなっていった。
少し前では考えられないような変化だった。アルコルにとって、ミザルは救世主のような存在になりつつあったのである。
そんなことが4カ月ほど続いた頃――ある異変が起こった。
授業が終わると、ミザルはアルコルに話しかけた。クラスじゅうがざわつく。
(あの人、アルコルのことをどう思っているのかしら?)
(クラスのいじめられっ子で、誰も関わりたがらないのにさ)
そんなひそひそ話におかまいなしに、ミザルはアルコルに近づく。しかし、当のアルコルは後ずさりをする。
「な、何で僕と……?」
自分はクラスカースト上位の3人組にいじめられ、クラスでも煙たがれているのである。人間不信になりつつある自分に近づくなど、どういうつもりなのか?
「何となくほっとけないのさ。まあ、つもる話は帰り道でしようかね」
半ば強引にミザルに連れ出され、アルコルは教室を出て行った。
ミザルは天気のことや自分のことを話しながら、時折アルコルに質問をする。アルコルは警戒心がまだ解けず、「うん」とか「そうだね」しか言わない。周りの人間から虐げられてきたことが、アルコルの心に殻を作ってしまったのだ。
さすがにミザルもこのままではいけないと思い、質問を変えてきた。
「君は何か得意なことはないの?」
「え、でも……」
母親のベナトナシュにはいつも「何のとりえもない」となじられている。それはある程度当たっていて、アルコルは勉強もスポーツも苦手なのだ。
「何かあるだろう。絵とか音楽でもいいし……」
すると、アルコルは思い出したように小さくつぶやいた。
「ドライフルーツ……」
「え?」
「ドライフルーツを作るのが得意…」
アルコルは、自分のかばんから小瓶を取り出した。中には干しぶどうや干しりんごが入っている。
「へえ、君が作ったのか。ひとつもらっていい?」
ミザルのお願いにアルコルはこくんとうなずく。
「干しりんご、おいしいね。売れるよ、これ」
女みたいな趣味、とからかわれると思ったのに褒めてくれた。さらに
「僕は特段料理が得意じゃないから、こういうのができる人って尊敬するよ」
尊敬――そんなふうに言ってくれる人は初めてだった。この時、ミザルへの警戒心が一気に薄らいでいった。
2人は毎日一緒に帰り、いろいろな話をした。アルコルが身の上話をすると、「それは大変だったな」と同情してくれた。
また、ミザルの話も聞いた。彼は父親が祠の守り人なのである。守り人とは星の大地の祠を管理する役人で、いわば神社の宮司や寺の住職にあたる。東の都、中つ都にはいくつか祠があり、それぞれ守り人が管理している。3年に一度異動することがあり、今回、ミザルの家は東の都の昴の祠を担当することになった。
そんなこともあり、アルコルは昴の祠にお参りするようになった。それまでいじめられっ子だったこともあり、「神も仏もあるもんか」と思っていたのだが、ミザルと出会い、ドゥベーたちにいじめられることが少なくなった。たまに1人でいる時にはからまれてくるのだが、そんな時でもミザルはすぐに駆けつけて助けてくれる。3人組は、初日に負けたのが効いたのか、ミザルが来るとそそくさと逃げる。
ミザルはアルコルを家に招き、一緒に遊ぶようになった。それからアルコルは笑顔が増え、日々の生活が楽しくなっていった。時折、ミザルの父親が守り人を務める昴の祠にも、一緒にお参りに行った。その境内には、他の学舎にいる少年少女も来ることがあり、少しずつ仲良くなっていった。
少し前では考えられないような変化だった。アルコルにとって、ミザルは救世主のような存在になりつつあったのである。
そんなことが4カ月ほど続いた頃――ある異変が起こった。