蒼い空の下で愛を誓う〜飛行機を降りたパイロットはただ君を好きなだけの男〜
チーフパーサーに再度連絡を行い、急旋回や機種を横に振り、衝撃を与える説明をした。その上で反応がない場合はタッチアンドゴーで更なる衝撃を与えてみるから、とあらかじめ準備するよう伝えた。
左右へ飛行機を振り、その後左へ急旋回すると機内からは驚くような叫び声が聞こえてきた。
整備士からの指示で着陸装置のスイッチを何度も切り替え、ブレーカーもチェックするが反応はない。通常の手順や代替の手順を整備士と無線で点検するがノーズギアが出る気配はない。

「ノーズギアが出ないままの着陸を考えるしかないな」

緊張の張り詰めた状態で松下機長から声をかけられる。そうなる可能性が高いと心の中では思っていたがいざ口に出されると緊張感が増す。こういった場面を幾度となくシュミレーションしてきた。色々な想定をし訓練を積んできた。だから大丈夫だと深呼吸をする。燃料がまだ1時間分は残っており、着陸時の火災に備え減らす必要がある。反対に減らしたからこそ何度も着陸をやり直すだけの燃料もなくなるということだ。

『東京コントロール、こちらWAL23便。ノーズギアが出ず胴体着陸をする。緊急事態宣言をする』

『WAL23便、緊急事態宣言をするのですね?』

『はい、宣言します』

松下機長は短くそう伝えると操縦桿を強く握る。俺は改めて客室へアナウンスをするためマイクをオンにした。

「皆様、当機は先端の車輪が出ず、このまま30分後に胴体着陸をすることになりました。我々はありとあらゆる訓練を積んできております。安心してお任せください」

ざわつくキャビンの声に俺は深呼吸をする。

「わたくしごとですが本日この飛行機を降りた後、明日入籍をする予定です。幾度となくすれ違い、ようやく彼女が結婚に前向きになってくれました。私は彼女を必ず幸せにすると誓いました。地上で待つ彼女と明日必ず結婚したいと思っております。皆様もご家族のもとに必ずお送りいたします」

俺のその言葉にキャビンから先ほどとは変わり、冷やかすような声が聞こえてきた。

「あの子か? グランドスタッフの」

「はい」

「こんな素直で熱い桐生を初めて見たよ。そんなお前を俺も彼女のところに送り届けなければならないな」

松下機長はハハッと少しだけ笑うとお互い緊張がいい意味で少しほぐれた。
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