狂気のお姫様
本当にこの2人に限っては野生児すぎて手に負えねぇ。
帰ります、そう言おうと思ったその時、
ザワッ
「蓮ちゃん」
「…」
え、なに?
なんだかいきなり2人の纏う雰囲気が変わり、思わず身構えた。
寝転がっていた長谷川さんはスッと起き上がり、廊下の窓から顔を出している私の目の前に背を向けて立った。
佐々木さんも、長谷川さんと同じ方向を睨んでいて、訳が分からず戸惑ってしまう。
「よぉ、佐々木夕に長谷川蓮」
いきなり2人の向こう側から聞こえた、彼らとは違う男の人の声に、
まずい。
そう思っているのはこの場で私1人だろう。
「誰だお前ら」
そう低い声を出したのは佐々木さん。
それはいつものおちゃらけている感じとは全く違う、天の佐々木さん。
不幸なことに、相手は1人ではなく、何人もいるみたいだ。それに、この感じだと仲良く話をする雰囲気じゃないだろう。
「小田、逃げとけ」
これはどうしたものか。東堂のハプニング体質がうつったか…と思っていると、ボソッと、私にだけ聞こえるように長谷川さんの声が聞こえた。
そこでやっと理解した。
この人、私の目の前に立って、私を隠してくれてるんだ。
「お前ら、スコップなんか持って何やってんの?だっせぇ」
…それは私も思ってた。
じゃなくて。
言われなくても逃げる気満々の私は、『ありがとよ、じゃあな』の意味を込めてポンッと長谷川さんの背中を叩くと、姿が見えないようにしゃがんだ。
「存在がだせぇ奴に言われたくないんだけどー」
少し遠くから聞こえる佐々木さんの声に、相変わらずだな、と思う。
「なんだとコノヤロウ!!」
「羽賀愁出せ!!!」
「羽賀はどこだ!!!」
「お前らやれば俺らが天だ!!」
狙いは羽賀さんのようで、彼も彼で大人気だな、と他人事のように思う。
そんなこと考えてる場合じゃなかった。さ、逃げよう。
彼らは大丈夫だろう。なんだか声を聞くだけでも雑魚って分かるし。
庇ってくれたし、今度アイスでもおごってあげるかな、と思いながら、しゃがんだままの体勢でその場をあとにした。
「めちゃくちゃ面倒。どうせ愁ちゃん狙いでしょ。愁ちゃん呼び出すか。ね、蓮ちゃん」
「…」
「蓮ちゃん…?…え、なんでそんな顔赤いの」
「るせ…」
【side 小田奏見 end】