狂気のお姫様
《あ、陽ちゃん》
まだ電話がつながってることに気づいたのか、律が携帯を拾い上げる音が聞こえる。
《壊れてなかったんだ。良かった》
「うん。だから今からしようとしてることはやめような」
後ろの3人を見ると、意味が分かったのか、自分の息子に手を当てて眉間にシワを寄せている。
想像したんだろうな。
《えー、別に死なないよ。たかが去勢でさ》
「去勢言うのやめろ!」
どんな教育受けたらこんな考えができるようになるんだまったく!!!
《あれ、震えてる。うける》
ケタケタ笑う律は、今にもブツを切り落としそうでこっちが冷や汗をかく。
「律ちゃん。いい子だからこちらに来なさい」
立てこもり犯をなだめる警察官の気分だ。
《えー》
「えー。じゃない。ていうかお前またやりすぎてないだろうな」
《やりすぎてないよ!》
絶対うそだ。
「現状は」
《んー?歯抜けが2人とー、さっきから全然動かないのが3人?》
やりすぎてるじゃねぇか。
「お、お前…」
《大丈夫!!奥歯がある!!!》
「そういう問題じゃねぇよ!!!」
奥歯までなくなってたら逆に怖いわアホが。
あぁもう収集がつかない。
「りーつ」
《ん?愁さん?》
横からスッと手が伸びてきて、いつの間にか携帯が奪われる。
律を止めてくれる気なのか。それならばもう任せてしまおう。
「律今どこにいんの」
《体育館倉庫ですけど》
「アイスは?」
アイスかよ!!!!!
《人のことパシらないでくださいよ》
「律のも買ってきていいから早くおいで」
項垂れた俺とは裏腹に、そのまま律と話す愁。
あいつが女の子になる日はくるのだろうか。
《私別に食べ物でつられないんですけど…》
確かに。蓮だったらすぐに食いつくけどな。
「じゃあなんだったらつられてくれんの」
《私をつろうとしないでください》
「なんで。釣りたい」
《魚か》
《ガラガラガラ…》
倉庫の扉が開く音がする。
さすがにやる気をなくしたのか、律は倉庫の外に出たみたいだ。
良かった。さすがに敵だからと言ってブツが切り落とされるのは可哀想すぎるからな。
「来ないの?」
《行きませんけど…》
愁はまだアイスを諦めてないのか、律に食い下がる。
律がこないだ屋上に来てから、また噂が流れているらしい。この期に及んで何をどうするとかはないが、これ以上目立ちたくないのだろう。頑なに屋上に来ることを拒否している。
「陽介、律に振られた」
スッと携帯を返され、画面を見ると通話は終わっていた。
「律の連絡先、送っといて」
「どこ行くんだよ」
「律んとこ」
ほんと、こいつらは揃いも揃って律に構いたがりだ。
【side end 如月陽介】