狂気のお姫様
第8章

第1節 クレープ越しの不良

拉致事件は、無事に体育館倉庫を死体倉庫に変えて一件落着。

バッキバキに画面が割れた携帯は、3年生のお財布の中から頂戴したお金で綺麗に修理した。

良かった。あれジローさんにめちゃくちゃねだって買ってもらったやつだったから、もしバレてたら殺されてた。


そしてだ。

私をパシリ損ねた愁さんは自分でアイスを買いに来たらしいが、もれなく私も捕まった。

「男が1人でアイスとか恥ずかしいじゃん。律もいて」と訳の分からないことを言われたが、お前の友達の長谷川って奴はコンビニのアイスコーナーの前で不動明王のように直立してたぞ、と心の中で思った。

幸い授業中だったので、あまり人がおらず嫉妬の視線に晒されなかったのが救いだ。ちゃっかり奢ってもらった。





「小田、前髪伸びたよな」

いつもの昼休み、小田とメガネと3人でご飯を食べていると、ふと小田の前髪に目がいく。


「あー、そうだな」

出会った頃は眉上で切り揃えられていたが、今は目の少し上まで伸びている。

「前は短かったのか?」

「うん。このぐらいだったよな」

「えー。今の方が俺は好きー」

「あ、私も」


元々綺麗な顔立ちはしているから髪型なんてなんでも似合うとは思うのだが、どっちかというと今の前髪の長さの方が私は好きだ。


「え、そうか?また切ろうと思ってたんだけどなー」

「短い方が好きなの?」

「いや、好きなわけではないけど…」

好きじゃないならなんで切るんだ。

「えー。かなみん切らないでおこうよー」

隣でぶーぶー言う蘭のおでこに人差し指をグリグリ押し付ける小田はいつもの小田だが、なんだか少し様子が違う。

「じゃあなんで切りたいの?」

「彼氏がなー」

そこで彼氏が出てくると思ってなかったので、少し驚いてしまう。

「綺麗系より可愛い系が好きなんだと」

「なるほどね」

理解した。

小田は今の前髪のままだと大人っぽい綺麗系。しかし眉上まで切ってしまうと幼く見えるのだ。


「え、かなみん彼氏に言われるから切るの?」

それは私も思った。こいつ意外と乙女だな、なんて。

ただ、それを言うと殺されそうな雰囲気なので言わないでおいてやろう。


「言われてはない」

「?」

「言われてはないんだけどさー。遠回しに『前髪短い方が似合うね』とか言ってくるから…」

「えー、自分の好きな髪型にしたくね?」


さっきから蘭は至極真っ当なことを言っているが、なんだか小田は悩ましげ。らしくない。


「なーんか、自分の好きな髪型にしたい自分と、彼氏の好きな髪型にしておきたい自分が最近ごちゃごちゃになってさー」

こういうことを言う小田は珍しい。

普段恋バナなんてまったくしないのに。


「うまくいってないのか?」

ほんと素直にズカズカ聞くよな長谷川弟。

「そういうわけじゃない」

今でも彼氏と一緒に帰っている。私が小田と一緒に帰れるのはたまにだ。

前に彼氏のことを聞いた時もなんだか煮え切らない返事だったが、何かあるんだろうか。
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