狂気のお姫様

『奏見、ごめんね。ごめん』

さっき、そう謝った彼は、本当に泣きそうな顔をしていた。

慶太も騙されてたんだからいいよ、なんて言葉が出てくるほど私も余裕はなくて。

『うん』

そう答えるしかなかった。


いつだって私は、私らしく自由に生きたいと思ってた。

だけど恋ってすごいんだよな。

彼が『女の子らしい子が好き』と言うと、そういうふうに振る舞うようになるし、『ロングの方が好き』というと髪の毛を伸ばす。

自分がしたい、というわけではないのに、相手の言葉を聞き入れてしまうのだ。

それがどれだけ滑稽で、純愛なものなのか。

正しいか正しくないかじゃなくて、そうなってしまうんだから仕方ない。

自分がしたいようにしたい、だなんていつも思ってたし、素が出せない自分を窮屈に思ったりもした。

だけど、やめられないのは。



やっぱり好きだったから。





でも、いつまでもこんな自分でいるのも嫌だった。

抜け出せなくて、変化が怖くてずっとこのままだったけど、やっぱり私は、自分のことも好きでいたいんだ。



1つだけ、スッキリしたのはあの女のこと。

『1つだけ聞いてもいい?』

『?』

『鹿島さんと一緒にいたところ見たんだけどさ』

『あぁ、鹿島さん。中学一緒だったよね。懐かしかったよ』

『たまたま会ったの?』

『うん。なんか、空郭に入れるかもって教えてくれたんだけど、俺騙されてたみたいだな』

そんなことはもうどうでもよくて。

私が聞きたいのは。

『鹿島さん、どうだった?』

前はこんなこと、聞けなかったのにな。

『別にどうもないけど…?そのあと、奏見が学校でどんな感じなのか聞いたよ。そしたら、急用あるからーってすぐ帰っちゃったけど』

『…』

その言葉で、ストンと、心が軽くなった気がした。

『そっか』

彼は、最後までちゃんと、私のことを、私だけを好きだった。





昔の恋だ。

それは恋なんかじゃなくて、もはや憧れとか、そういう気持ちもあったのかもしれない。

だけどはじめは恋じゃなかったとしても、それは確実に恋へと成長していた。




「……グスッ…」

ボロボロと、とめどなく溢れてくる涙は止まることを知らないかのように、地面に染みをつくっていく。

「うっ……」

拭っても拭っても、拭いきれない気持ちで目の前が見えなくなる。

やっぱり1人で良かった。

今はちゃんと、彼のことだけを考えたい。




もう終わってしまった恋。戻らない恋。

だけどもう少し。

もう少しだけ、好きでいてもバチは当たらないんじゃないか。

きっとこれは、いい思い出になる。

後悔なんてしてやんない。



昔の私。ごめんね。

さよなら。私の恋。


【side end 小田奏見】
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