狂気のお姫様
第11章

第1節 挨拶の礼儀

「成瀬と申します」

と言って綺麗に頭を下げたイケおじは、私を見るとにっこりと笑った。

「成瀬の若頭をさせていただいております、千秋と申します」

そして、イケおじに続き、これまた綺麗に頭を下げたロリコン男もとい千秋ちゃんは、色気しかない着物の袖をさらりと捲り、私の前に座った。

「おう、成瀬の」

東堂と成瀬は、今まであまり関わってこなかったが、力関係で言えば、東堂の方が上らしい、と今のやりとりで分かるだろう。

「俺の姪、律だ」

と雑に紹介され、一応ぺこりと頭を下げる。

同じように立って一礼すべきなのか?とか、「律と申します」って言った方がいいのか?とかいろいろなことが頭をよぎったが、本業の礼儀をあまり知らない、いたいけな女子高生を演じた方がいいのでは、と思い直し、ジローさんの隣に座ったまま挨拶をした。そもそもそこらへんの礼儀とか知らんし。ただの一般ピープルだもん私。

「急にすまんな、東堂の」

ジローさんの前に座るこの人が、成瀬組の長なのだろうとは思うが、ジローさんともさっちゃんとも違うイケおじで、私大混乱。

「そうだなぁ、急だな」

と冷たい表情で返すジローさんにも、美しい微笑を浮かべる。やっぱり組長がパンチパーマで顔に傷のある強面という時代は終わったんだ…。オーラや、統率者としての威厳はあるが、どう見たって本業には見えないもん。

「これでも悪いとは思ってんだ、いろいろとな」

「俺はお前たちを疑わなくていいんだろうな」

「そこは心配しなくていい」

ほんとに千秋ちゃんの親父か……?どうやったらこんな儚げなイケおじから、圧強めの男が生まれるんだ…。

こないだ話題に上がった荒木組の後処理については、すでに組同士でやりとりをしているらしく、一般人の私の前では、はっきりとは話に出さないようだ。

なんとなく察してはいるが、本当の一般人なら、今の話でさえ、何を話しているのか分からないだろう。


成瀬組の組長さんとジローさんがいろいろと話している間、暇だったので視線を横にズラすと、バチッと千秋ちゃんと目が合う。

私と千秋ちゃんがすでに知り合った、ということをこの組長さんは知っているのだろうか。

じっと千秋ちゃんを見つめていると、微かに口角が上がったような気がしたが、

「律さん」

と、組長さんに名前を呼ばれ、視線を外す。

「あ、はい」

「すまないね、いきなり」

お見合いのことだろうか。

「あ、はい」

無難な返事すぎた…?
東堂の方が上とはいえ、仮にも本業の方なので、返答には少し気を遣う。

「うちは今まで東堂とはあまり関わってなかったが、この機会にどうか、と思って、ね。友好関係を結ぶに越したことはないだろう」

「友好関係なぁ」

ジローさんは相変わらず冷たい表情だ。

「千秋も結婚適齢期でな、そろそろ跡継ぎのことも考えねばと思ってなぁ」

と、もっともらしいことを言うが、それで東堂を選ぶところが、頭が回るよね。

が、

「俺は律をこっちの世界に入れようとは思ってねぇんだわ」

これが答えなんですよね。
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