狂気のお姫様
「ハグもタックルも、律からされたことないんだけど?」
いやあんたはされたいんか。
「いや…しませんよ…」
「え、律ちゃん、俺が特別ってこと!?」
誰が言うたんやそれ。
ツッコむのも面倒になり「ああそうですか」と適当に返事をすると、鳴さんは「冷たいー」と私の頭に腕を回す。でかいんだよ。無駄に。
「重い」
鳴さんの腕を振り払おうとすると、それよりも先に鳴さんの腕が離れる。
「いてっ」
「鳴、お前は触りすぎ」
いやあんたが言うか。
愁さんが蹴りをいれたようで、金髪が一歩後ろに退く。
「小田ちゃーん、律ちゃんも愁も冷たい助けて」
完全邪魔者扱いだよー、と鳴さんは小田に標的を変える。
あ、気配をできるだけ薄くしていたようですが、無駄ですよ小田さん。
「小田ちゃんは俺を慰めてくれるよねー」
「私では力不足ですすみません」
「断るのはや」
光の速さで断りを入れる小田。もはや食い気味だった。
鳴さんが小田にちょっかいを出しているのを冷たい目で眺めていると、後ろから腕をひかれる。
「わ、びっくりした」
「ハグもタックルも、律からされたことない」
それまだ言うんか。
「そりゃそうでしょうよ……」
「なんで?」
なんでって、なんで???
「それにハグはしてないですってば。ハグになる前に回避しました」
なんで私はこんな言い訳みたいなことをつらつらと言わされているんだ…。
「ふぅん」
私の言い訳も虚しく、銀髪様はまだご不満なようで。
「なんですかその顔は…」
と聞くと、
「…」
少し間があき、造形美な顔面がゆっくりと近づいてくる。
なぜか愁さんに見つめられると逃げられない私は、それを見つめ返すことしかできない。
はたから見れば、『なんかあいつら近くね?内緒話でもしてるのか?』な距離。
汗と砂埃まみれなはずなのに、なんでこんな綺麗な顔のままなんだろう。
形のいい唇が開く。
「妬いた」
「…っ」
少し拗ねたような顔でそう言うと、愁さんは私の頭をぐしゃっと撫でて先を歩く。
もう、ほんとに、この人は私をどうしたいんだ。