狂気のお姫様
【side 如月陽介】


「陽介、俺ちょっと奥行くの怖いとか思っちゃったんだけど」

「あー…それが正常な反応だぞ」


陽の光も通らないような真っ暗で閑散とした路地裏、思わず顔を顰めたくなる鉄の臭い、木箱に座り壁にもたれ、足をブラブラさせている血塗れの女。

それは誰が見ても異様な光景と言えるだろう。



こないだ階段から落とした女も相当だったが、久しぶりにここまでの仕返しを見た。なんだか前よりグレードアップしている気がするのは気のせいか。


「階段から人落とす時点でやばいとは思ってたけど…」

「何とも思ってないからなあいつ」

「人間の心あるのかな」

「それはたまに思う」


こういう揉め事さえなかったら普通の女子高生なのだが…。顔だって美人だし。

血は争えないのか…、まぁそもそもの基礎があの両親とジローさんだからな…普通にというわけにはいかないか…。


「なんか違う」

「愁ちゃん?」

ポツリと一言こぼした愁に、夕が首を傾げる

「あの子、あんなんだっけ。なんかこの前とも、お前と話すときとも違う気がする」

さすが鋭い。

あまり言葉に出したりしないが、愁は洞察力が高いと思う。人と関わらないくせに…人のことをよく分かってるというか…。まぁ律の場合、なんとなく分かりやすい部分もあるが。


「あいつな、喧嘩したあと途轍もなく緩くなるんだよな」

「緩く…?」

「見た目あんま変わってなくない??」

「本人が気づいてるかどうかは分かんねぇけど…なんていうか、やりきった反動だろうな。雰囲気が緩くなるんだよな」

「雰囲気…ねぇ」

「ただ、緩くなった分、人でもサクッと殺しそうな顔しやがる」

「わお」

「だけど、喧嘩が終わったのに気が緩んでない時もあんだよな。そん時はまだ何かあるってことだ」

「それって危機察知能力的なー?」

「まぁそれに近いだろうな」


自分でもたまに、律を怖いと思う時がある。

あんなにスクスク育ったのに…いや、スクスクのびのび育ちすぎたせいであんな狂人になったのか。

「はぁ…」

これがバレたらまたジローさんにこっぴどく怒られるんだろう。ていうか自分のところにもとばっちりが来るかもしれない。くそ…同じ高校なんぞに入学しおってあのバカ。妹みたいなもんだから結局こうやって世話を焼いてしまうのだ。


「さて…暇そうにしてるし、お迎えにあがりますか」

と言うと、何故か2人に途轍もなく同情の目で見られた。

こんな顔を向けられることはしょっちゅうなので、もう慣れているが、同情するくらいなら誰かあいつを止めてくれ、とも思う。

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