狂気のお姫様
ていうかこの人、やっぱり意外と普通に喋ってくれる。
独特の雰囲気とドがつくほど綺麗な顔立ちをしているから、関わりづらいと感じがちだが、そうでもないのかもしれない。
ただ、たまに殺されるんじゃないかと思うぐらいのオーラを放ってることがあるからただ者ではないのだろう、と思うが、当初の印象よりかはだいぶ和らいだ。カレーパン大好きだし。
「律、飴」
「え、ないです」
「なんで?」
「え」
「…」
「…」
なんでってなんで!?!?!?
唐突すぎて普通に返したが、ないものはない。ていうか飴なんぞ普段持ち歩くわけなかろう。
「前も思ったんですけど、何故飴…?」
「んー、気分」
ひっくり返るわ。
「何故私に?」
「甘そうだから」
ひっくり返るわ。
意味不明な理由をサラッと言い放つ羽賀愁は、ちょっとバカなのかもしれない。
『甘そう』ってどういうこと?味見した?私のこと味見した?知らぬ間に食べられてた?どこかかじられてる?
「何変な妄想してんの」
「濡れ衣」
なんで頭の中で考えてたことがこうも簡単に分かるのだ。
「襲われそうだから行くわ」
「もっと濡れ衣」
私の渾身の突っ込みも華麗にスルーし、「じゃあね」と言って階段を昇っていく羽賀愁。なんだか遺憾だ。このままじゃ頭のやばいやつだ、という認識のままではないか。
陽ちゃんに弁解しておいてもらうか、と思いながら羽賀愁の背中をボケッと眺めていると、階段を昇っていく足が途中で止まり、またこちらに振り返った。
「あ、律、仕返しありがと」
「あ、はい」
何を言われるかと思ったが、なんだそんなことか。
別に羽賀愁や佐々木夕のためにやったことではなく、ただ私に喧嘩を売ってきたから買って倍返しにしてやっただけなので、お礼を言われる筋合いはないのだが。
律儀だな。
羽賀愁は私の返事を聞くと、また少しだけ微笑んで今度こそ行ってしまった。
なんだったんだ…と思うが、なんだか距離が縮まったような気がする。まぁ、距離を縮めてどうするのだ、といったところだが。
途中若干脳内パニックだったが、彼の機嫌を損ねなかったので良しとしよう。