早河シリーズ最終幕【人形劇】
突然現れた馴染みの編集者の金子に驚いたなぎさは両手で口元を押さえて身体を仰け反らせた。
「わっ……! 金子さんっ?」
『わっ……って、酷いなぁ。俺が名前呼んでも気付かずに、ずっとボーッとしてたよ?』
「ごめんなさい。考え事をしていて……。それにこんな所で金子さんに会うとは思わなくて」
『ははっ。いいよいいよ。取材で近くまで来たから四谷で話題のコーヒーを飲みに寄ったんだ。ここのコーヒー、グルメ雑誌でも人気高いから。評判通り美味しいね』
金子はなぎさと同じテーブルに移動する。テーブルに二つのコーヒーカップが並んだ。
『四谷だから香道さんに会えないかなーとは思ってたけどまさか本当に会えるとはね。でもなんだか思い詰めた顔していたね』
「思い詰めた顔……してました?」
『してたよ。眉間にシワ寄せた怖ーい顔』
金子は自分の眉間にシワを寄せて顔をしかめた。その表情が可笑しくてなぎさは微笑する。
『早河さんとはあれから順調?』
「はい。今夜、彼と一緒に私の実家に行くんです。父が彼に話があるから来てほしいと言って」
『へぇ。お父さんからのお呼びだしか。緊張するね』
「緊張しますし、父が彼にどんな感情を抱いているのかわからないから怖いです。付き合いを反対されるかもしれない」
『それは亡くなったお兄さんのことが関係してる?』
金子は以前に早河から、早河となぎさの過去の話は大方聞いている。なぎさは頷いた。
彼は唸り声を出して腕組みする。
『確かにご両親の立場で考えると複雑だろうね。どうしたって息子さんの死と早河さんを切り離すのは無理だと思うし』
「そうですよね。私も両親の気持ちはわかっているつもりです。私だって彼と兄の死を切り離せない。でも……彼と一緒に生きていきたい」
なぎさは左手の薬指に触れた。早河から贈られたエンゲージリングが左手の薬指に嵌まっている。
『早河さんと結婚するの?』
「はい。プロポーズされて、結婚を決めました」
『そっか。……あーあ。目の前で婚約指輪見ちゃうと実感沸いてやっぱり悔しいな。でもおめでとう。本当に良かった。俺は二人のこと応援してるよ』
「ありがとうございます」
金子の笑顔はとても温かくて彼の気持ちが伝わってくる。祝福してくれる人がいる、それが救いだった。
Edenの前で金子と別れたなぎさは早河探偵事務所に戻る道を歩く。日没時刻の過ぎた東京は闇の訪れと共に街は温かな灯りに色付いていた。
大丈夫。この世界はまだこんなに優しさに溢れている。
この世のすべてが敵のように思えても、この世のすべてが敵ではないと、まだ残っている優しさの光が教えてくれる。
だから大丈夫。
信じてくれる人を信じよう。
私は私の信じるものを、最後まで信じ続けよう。
「わっ……! 金子さんっ?」
『わっ……って、酷いなぁ。俺が名前呼んでも気付かずに、ずっとボーッとしてたよ?』
「ごめんなさい。考え事をしていて……。それにこんな所で金子さんに会うとは思わなくて」
『ははっ。いいよいいよ。取材で近くまで来たから四谷で話題のコーヒーを飲みに寄ったんだ。ここのコーヒー、グルメ雑誌でも人気高いから。評判通り美味しいね』
金子はなぎさと同じテーブルに移動する。テーブルに二つのコーヒーカップが並んだ。
『四谷だから香道さんに会えないかなーとは思ってたけどまさか本当に会えるとはね。でもなんだか思い詰めた顔していたね』
「思い詰めた顔……してました?」
『してたよ。眉間にシワ寄せた怖ーい顔』
金子は自分の眉間にシワを寄せて顔をしかめた。その表情が可笑しくてなぎさは微笑する。
『早河さんとはあれから順調?』
「はい。今夜、彼と一緒に私の実家に行くんです。父が彼に話があるから来てほしいと言って」
『へぇ。お父さんからのお呼びだしか。緊張するね』
「緊張しますし、父が彼にどんな感情を抱いているのかわからないから怖いです。付き合いを反対されるかもしれない」
『それは亡くなったお兄さんのことが関係してる?』
金子は以前に早河から、早河となぎさの過去の話は大方聞いている。なぎさは頷いた。
彼は唸り声を出して腕組みする。
『確かにご両親の立場で考えると複雑だろうね。どうしたって息子さんの死と早河さんを切り離すのは無理だと思うし』
「そうですよね。私も両親の気持ちはわかっているつもりです。私だって彼と兄の死を切り離せない。でも……彼と一緒に生きていきたい」
なぎさは左手の薬指に触れた。早河から贈られたエンゲージリングが左手の薬指に嵌まっている。
『早河さんと結婚するの?』
「はい。プロポーズされて、結婚を決めました」
『そっか。……あーあ。目の前で婚約指輪見ちゃうと実感沸いてやっぱり悔しいな。でもおめでとう。本当に良かった。俺は二人のこと応援してるよ』
「ありがとうございます」
金子の笑顔はとても温かくて彼の気持ちが伝わってくる。祝福してくれる人がいる、それが救いだった。
Edenの前で金子と別れたなぎさは早河探偵事務所に戻る道を歩く。日没時刻の過ぎた東京は闇の訪れと共に街は温かな灯りに色付いていた。
大丈夫。この世界はまだこんなに優しさに溢れている。
この世のすべてが敵のように思えても、この世のすべてが敵ではないと、まだ残っている優しさの光が教えてくれる。
だから大丈夫。
信じてくれる人を信じよう。
私は私の信じるものを、最後まで信じ続けよう。