早河シリーズ最終幕【人形劇】
 矢野がセキュリティシステムの強度を上げた阿部のパソコンの隣には、君塚の自宅から見つけた例のフロッピーディスクがある。

『フロッピーのデータ、読み込めましたか?』
『かろうじてな。95年の古い型の物だったが、警察庁の情報通信局のパソコンから読み込みができた。ディスクのデータはUSBに移行してある。これが1995年に辰巳佑吾が企てたドールハウスプランとやらの全貌だ』

 煙草を持つ手とは反対の手で阿部がパソコン画面を早河に向けた。早河は画面に食い入る。緻密に書かれた文字を追うだけで頭が痛くなる内容に彼は溜息をついた。

『想像以上に胸糞悪りぃな……』
『だな。あの貴嶋の父親だけのことはある』
『警視、そこ褒めるとこじゃないですよ』

早河と阿部はやりきれない想いを抱えて顔を見合わせた。画面をスクロールするとある記述が目に留まる。

『これを読んで確信しました。親父を殺すこともプランの一部だったってことですね。親父に辰巳のアジトの情報を流した奴も辰巳の仲間だった』

 14年前に早河の父、早河武志はある諜報機関から辰巳のアジトの情報提供を受けた。しかしその諜報機関が武志に与えた情報は、辰巳が差し向けた罠だった事実が記述からわかる。

 武志に罠を仕掛けた諜報機関を裏で仕切っていたボスの名前は、最強の情報屋の異名を持つ犯罪組織カオスのラストクロウ。

貴嶋時代のカオスのラストクロウは佐藤瞬、ここに記載されたラストクロウは佐藤の前の代、辰巳時代のカオス幹部だ。

『早河元警部が辰巳の居所を突き止めることも彼がそこへ行くことも、辰巳に仕組まれた計画だった』
『親父は辰巳の罠に嵌められて……辰巳ではなく貴嶋に殺された』

 込み上げてくるこの感情の名前がわからない。怒り? 悔しさ?

父の正義を利用した辰巳への憎しみ、父の正義を果たせなかった悔しさと無念、父を殺した貴嶋への怒り。

(親父はどんな想いで死んでいったんだろう)

父親が殺されるに至る真相を知った早河を阿部が気遣う。

『大丈夫か?』
『頭はだいぶヒートしていますけど……怒りに任せて暴走したところで貴嶋には勝てません。大丈夫です』

そうは言っても怒りと同調する拳の震えは止まらなかった。

『14年前の辰巳の計画を貴嶋がなぞっているとすれば今回の奴の狙いが読めますね』
『まさにドールハウスなんだろう。悪趣味な計画だ』

 阿部の携帯が着信を鳴らす。彼は席を立ち、早河に背を向けて電話に出た。
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