早河シリーズ最終幕【人形劇】
キッチンで母の友里恵と夕食の準備に追われていたなぎさは、しきりに早河と父のいる仏間の様子を気にしていた。
「なぎさ。これ切っておいてね」
「うん」
サラダ用の野菜を切っている時に手を止めて、鍋の番をする友里恵を見る。
「ねぇ、お母さんは反対しないの?」
早河との結婚を友里恵に報告しても、友里恵は微笑しただけだった。
「反対なんてしないわよ。お母さんはこうなること、なんとなくわかっていたの。なぎさはずっと早河さんのことが好きだったからね」
「ずっとって……えっ?」
「早河さんを好きになったのは、2年前に早河さんがなぎさのお見舞いに来てくれていた時からでしょう?」
なぎさは放心した。これが包丁を使っている時じゃなくて良かったと思う。間違いなく包丁で手を切ってしまっていた。
「お母さん……に、2年前って……」
「あら、やだ。気付いていなかったの? 鈍い子ねぇ」
友里恵はパニックを起こすなぎさを見て面白がっている。
「だって2年前のお見舞いの時って私が助手になる前の……」
「そうよ。あの時にはもう早河さんのこと好きだったでしょう? 早河さんが病院にいらっしゃるのを心待ちにしていたじゃない。早河さんにいただいた花束のリボンをコレクションしたりして」
「それは……そうだけど……」
2年前の早河の助手になる以前から、早河のことが好きだったのかもしれないと自覚はあったが、改めて母親から指摘されると恥ずかしいものだ。
「出版社を辞めて早河さんの事務所で雇ってもらうって家を飛び出した時も、あれは半分以上は早河さんに会いたくてたまらない恋する女の顔をしていたのよ。お母さんからすれば、結婚すると聞かされても、やっとかぁ、むしろ遅すぎるくらいね? と思うだけよ」
ニコニコと微笑む友里恵の姿に安堵と脱力でなぎさは肩の力を抜いた。不安になる必要などなかった。母は娘の気持ちを最初からお見通しだった。
「やっぱりお母さんって凄いね」
「なぎさも母親になればわかるわよ」
友里恵はなぎさを優しく抱き締めて彼女の下腹部に触れる。
「次はあなたを一番大切に想ってくれる人の子供を産みなさいね」
「……うん」
母の手に手を重ねる。次にこの身体に宿る命は大切な人の命の一部。
中絶した過去は永遠に消えない。だからこそ、次は胸を張って産んであげたい。
「お父さん達、何話してるのかな」
「色々と込み入ったお話があるのよ。男同士のお話もあるでしょう。お母さん達もね、結婚を反対されたのよ」
「そうなの?」
「お母さんのお父さん……秋山の家のなぎさのお祖父さんにね。結婚を決めた時、お父さんは大学院生で、私もまだ大学にいて、お腹に秋彦がいることがわかったの」
初めて聞かされる父と母の過去。
「なぎさ。これ切っておいてね」
「うん」
サラダ用の野菜を切っている時に手を止めて、鍋の番をする友里恵を見る。
「ねぇ、お母さんは反対しないの?」
早河との結婚を友里恵に報告しても、友里恵は微笑しただけだった。
「反対なんてしないわよ。お母さんはこうなること、なんとなくわかっていたの。なぎさはずっと早河さんのことが好きだったからね」
「ずっとって……えっ?」
「早河さんを好きになったのは、2年前に早河さんがなぎさのお見舞いに来てくれていた時からでしょう?」
なぎさは放心した。これが包丁を使っている時じゃなくて良かったと思う。間違いなく包丁で手を切ってしまっていた。
「お母さん……に、2年前って……」
「あら、やだ。気付いていなかったの? 鈍い子ねぇ」
友里恵はパニックを起こすなぎさを見て面白がっている。
「だって2年前のお見舞いの時って私が助手になる前の……」
「そうよ。あの時にはもう早河さんのこと好きだったでしょう? 早河さんが病院にいらっしゃるのを心待ちにしていたじゃない。早河さんにいただいた花束のリボンをコレクションしたりして」
「それは……そうだけど……」
2年前の早河の助手になる以前から、早河のことが好きだったのかもしれないと自覚はあったが、改めて母親から指摘されると恥ずかしいものだ。
「出版社を辞めて早河さんの事務所で雇ってもらうって家を飛び出した時も、あれは半分以上は早河さんに会いたくてたまらない恋する女の顔をしていたのよ。お母さんからすれば、結婚すると聞かされても、やっとかぁ、むしろ遅すぎるくらいね? と思うだけよ」
ニコニコと微笑む友里恵の姿に安堵と脱力でなぎさは肩の力を抜いた。不安になる必要などなかった。母は娘の気持ちを最初からお見通しだった。
「やっぱりお母さんって凄いね」
「なぎさも母親になればわかるわよ」
友里恵はなぎさを優しく抱き締めて彼女の下腹部に触れる。
「次はあなたを一番大切に想ってくれる人の子供を産みなさいね」
「……うん」
母の手に手を重ねる。次にこの身体に宿る命は大切な人の命の一部。
中絶した過去は永遠に消えない。だからこそ、次は胸を張って産んであげたい。
「お父さん達、何話してるのかな」
「色々と込み入ったお話があるのよ。男同士のお話もあるでしょう。お母さん達もね、結婚を反対されたのよ」
「そうなの?」
「お母さんのお父さん……秋山の家のなぎさのお祖父さんにね。結婚を決めた時、お父さんは大学院生で、私もまだ大学にいて、お腹に秋彦がいることがわかったの」
初めて聞かされる父と母の過去。