早河シリーズ最終幕【人形劇】
 母が一度流産し、秋彦と自分の間には幻の兄弟がいた話は聞いたことがあるが、結婚前の話は初めて聞く。

「それでお祖父ちゃん怒っちゃったの?」
「もう大変な騒ぎだったわよ。二人とも学生だからお金はないしお父さんはお祖父ちゃんに殴られるし、でもお母さんは絶対に秋彦を産みたかった。堕ろすなんて考えもしなかった」
「それでお母さん達はどうしたの?」
「ふふっ。半分は駆け落ちみたいなものね。私が家を飛び出して、親に無断で婚姻届を出して、お父さんが独り暮らししてるアパートに転がり込んじゃった。だから、なぎさはさすがお母さんの娘だなぁと思ったものよ」

両親の歴史を聞かされて、なぎさは苦笑いした。確かに自分と母はよく似ている。

「でも秋山のお祖父ちゃん、お父さんと一緒にお酒飲んだり将棋したりしてるよね。今は仲良しに思うけど……」
「お父さんがそれだけ頑張ったからね。頑張って頑張って、院生から講師になって、今は立派な教授ですもの。そうやってお祖父さんを認めさせてきたの。だからお父さんもね、早河さんのことを認めざるを得ないのよ。きっと自分の若い頃と早河さんを重ね合わせているんだわ」

 食事の準備が整った頃合いに仏間から早河と正宗が出てきた。

「そのご様子だと和解できたのかしら?」
『最初から仲違いなどしていないよ』

友里恵の含み笑いに正宗は照れ臭そうにそっぽを向いてダイニングテーブルの席についた。食卓には四人分の席と料理が用意されている。

『早河さんもそんなところに立っていないでこちらにお座りなさい』
『はい』

緊張の面持ちが解けないまま、早河はなぎさと顔を見合わせた。

『結婚、認めてもらえたから』

 なぎさにそれだけ伝えて早河は友里恵の誘導で正宗の向かい側の席に座った。早河の席はかつて兄の秋彦がいた場所だ。
なぎさが早河の隣に座る。

『なぎさ。早河さんを支えてあげなさい。夫婦になると言うことは、どんな時も互いに支え合って生きていくことだ。わかったな?』

四人分の味噌汁を食卓に並べ終えた友里恵も正宗の横で優しく微笑んでいた。

「秋彦もなぎさのお相手が早河さんなら文句ないわね」
『どうだろうなぁ。アイツはなぎさのことになると、俺よりうるさいかもしれんぞ』

 父と母と死んでしまった兄。
兄の席には今は愛する人がいて、ダイニングテーブルの下で温かい手が触れ合った。

この幸せで温かな日常を失いたくない。
絶対に失いたくない。
戦う覚悟はできている。

間もなく、戦闘開始だ。
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