早河シリーズ最終幕【人形劇】
 ──12月9日、JSホールディングス本社爆破後。

 芝公園野球場に避難した隼人を含む社員全員に自宅待機が命じられた。
社員達は散り散りに帰路を辿り、隼人も地下鉄の芝公園駅に足を向けていた。

芝公園駅の出口に到着する直前に誰かに名前を呼ばれた。美月の携帯は繋がらず、他にも気掛かりなことがあり考え事をしていた彼は、その声がどこから飛んできたかわからない。

「木村先輩」

 もう一度名前を呼ばれた。自分を先輩と呼ぶ人間は限られている。どこかで聞いた覚えのある声の主に気付いた隼人はハッとして振り向いた。

セミロングの黒髪を冬の風になびかせて彼女は立っていた。数年の時を経て雰囲気は変わっていても彼女の顔立ちには見覚えがある。

『……沢井』
「ご無沙汰しています」

 隼人の前に現れた女は大学の後輩の沢井あかりだった。彼女は3年前の静岡連続殺人事件の直後に大学を中退し、アメリカの実家に帰ったと聞いている。

『帰って来てたのか』
「日本に少し用があって」

 彼女はヒールの音を鳴らして隼人に歩み寄る。3年前よりも大人びた雰囲気を漂わせるあかりは隼人の知らない女性に映った。

それほど親しい間柄でもないが、可愛がっていた後輩ではあった。

「半年前、早河探偵に私のことを調べさせましたよね」
『3年前のことが気になってな。悪い』
「謝らなくていいですよ。先輩が気にする気持ちもわかります。早河探偵から報告を受けていると思いますので開き直って言いますが、私は犯罪組織カオスのメンバーです」

 改めて本人の口から聞かされた沢井あかりのもうひとつの顔。わかってはいても、そうであって欲しくなかった。

『犯罪組織のメンバーがどうしてこんな所に?』
「先輩に話がある人がいます。私と一緒に来ていただけますか?」
『俺に話? 誰だよ』
「クイーンと言えばお分かりですよね」

 隼人の瞳が揺れた。クイーン、その呼称で呼ばれる彼女とはもう会うことはないと思っていた。

『寺沢莉央が俺に? なんで……』
「それは本人に聞いてください。私はあなたを連れて来るようクイーンから指示を受けただけです」
『……わかった』

あかりの一歩後ろに下がって隼人はあかりについていく。
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