早河シリーズ最終幕【人形劇】
12月12日(Sat)
貴嶋佑聖の逮捕と寺沢莉央の死から一夜明けた12日午後5時、早河は警視庁を訪れた。古巣の捜査一課のフロアに久々に足を踏み入れる。
相変わらず雑然とした机の並びと忙しなく動き回る刑事達の光景が懐かしい。
「なぎさちゃんは、どうしていますか?」
小山真紀が早河にコーヒーを淹れたカップを渡した。彼女は阿部の命で警視庁と警察庁の橋渡し役として昨夜から奔走している。
徹夜には慣れている真紀もさすがに疲れた表情をしていた。
『実家に帰ってる。俺は側にいてやれないし、お父さんやお母さんと一緒にいる方がなぎさも気が紛れるだろう』
「そうですよね。寺沢莉央があんなことになって一番辛いのはなぎさちゃんですから。……早河さんに見せたかったものはこれです」
真紀のデスクには栄養ドリンクの空き瓶や食べ終えた栄養補助食品の袋が散乱していた。真紀はそれらをデスクの下のゴミ箱にまとめて放り込んで、束になった書類のページをめくって早河に渡す。
「美月ちゃんの携帯電話からは美月ちゃん以外の指紋は検出されませんでした」
『貴嶋の指紋も?』
美月は9日に渋谷駅前で連れ去られる時に貴嶋に携帯電話を取り上げられた。しかるべき部分に貴嶋の指紋がついているはずの携帯に、持ち主以外の指紋がないのは奇妙だ。
「貴嶋の指紋もありません。携帯の表面、画面、背面、ボタン部分、どこを調べても美月ちゃんの指紋しかなかったんです。他の指紋は綺麗に拭き取られていました」
『浅丘美月のバッグに携帯を戻した“誰かさん”の指紋もないってことか』
「その誰かが指紋を拭き取ったと考えて間違いないかと」
真紀はさらに書類をめくる。めくったページには映像から読み込んだ顔写真が載っていた。
「赤坂ロイヤルホテルのカメラ映像を調べて見つけました。スパイダーを逮捕した時、私達がラウンジの手前ですれ違ったのはこの男ですよね?」
早河は顔写真のページを凝視する。紙の上での写真は解像度が低く画質も悪いが、顔立ちを判別するには充分だった。
長めの髪に眼鏡、切れ長の目に高い鼻梁。赤坂ロイヤルホテルのラウンジから出てきた長身にスーツを纏った男と類似する。
『間違いない。こいつだ。身元は?』
「それが……この男、明鏡大学で教師をしていたようです。美月ちゃんが証言してくれました」
『教師? 明鏡大で?』
「10月から美月ちゃんが受けていた授業を担当する非常勤講師として明鏡大に勤務していました。それだけじゃなく、この男の名前が……」
『名前がどうした?』
口ごもる真紀を促す。真紀はまた書類をめくり、とあるページを早河に向けた。
「男の名前は三浦英司」
『おい、その名前は……』
「明鏡大に問い合わせましたが、10月から3ヶ月の契約で三浦英司を非常勤講師として勤務させていました」
真紀が早河に見せたページは美月から聞き出した三浦英司についての調書だ。
貴嶋佑聖の逮捕と寺沢莉央の死から一夜明けた12日午後5時、早河は警視庁を訪れた。古巣の捜査一課のフロアに久々に足を踏み入れる。
相変わらず雑然とした机の並びと忙しなく動き回る刑事達の光景が懐かしい。
「なぎさちゃんは、どうしていますか?」
小山真紀が早河にコーヒーを淹れたカップを渡した。彼女は阿部の命で警視庁と警察庁の橋渡し役として昨夜から奔走している。
徹夜には慣れている真紀もさすがに疲れた表情をしていた。
『実家に帰ってる。俺は側にいてやれないし、お父さんやお母さんと一緒にいる方がなぎさも気が紛れるだろう』
「そうですよね。寺沢莉央があんなことになって一番辛いのはなぎさちゃんですから。……早河さんに見せたかったものはこれです」
真紀のデスクには栄養ドリンクの空き瓶や食べ終えた栄養補助食品の袋が散乱していた。真紀はそれらをデスクの下のゴミ箱にまとめて放り込んで、束になった書類のページをめくって早河に渡す。
「美月ちゃんの携帯電話からは美月ちゃん以外の指紋は検出されませんでした」
『貴嶋の指紋も?』
美月は9日に渋谷駅前で連れ去られる時に貴嶋に携帯電話を取り上げられた。しかるべき部分に貴嶋の指紋がついているはずの携帯に、持ち主以外の指紋がないのは奇妙だ。
「貴嶋の指紋もありません。携帯の表面、画面、背面、ボタン部分、どこを調べても美月ちゃんの指紋しかなかったんです。他の指紋は綺麗に拭き取られていました」
『浅丘美月のバッグに携帯を戻した“誰かさん”の指紋もないってことか』
「その誰かが指紋を拭き取ったと考えて間違いないかと」
真紀はさらに書類をめくる。めくったページには映像から読み込んだ顔写真が載っていた。
「赤坂ロイヤルホテルのカメラ映像を調べて見つけました。スパイダーを逮捕した時、私達がラウンジの手前ですれ違ったのはこの男ですよね?」
早河は顔写真のページを凝視する。紙の上での写真は解像度が低く画質も悪いが、顔立ちを判別するには充分だった。
長めの髪に眼鏡、切れ長の目に高い鼻梁。赤坂ロイヤルホテルのラウンジから出てきた長身にスーツを纏った男と類似する。
『間違いない。こいつだ。身元は?』
「それが……この男、明鏡大学で教師をしていたようです。美月ちゃんが証言してくれました」
『教師? 明鏡大で?』
「10月から美月ちゃんが受けていた授業を担当する非常勤講師として明鏡大に勤務していました。それだけじゃなく、この男の名前が……」
『名前がどうした?』
口ごもる真紀を促す。真紀はまた書類をめくり、とあるページを早河に向けた。
「男の名前は三浦英司」
『おい、その名前は……』
「明鏡大に問い合わせましたが、10月から3ヶ月の契約で三浦英司を非常勤講師として勤務させていました」
真紀が早河に見せたページは美月から聞き出した三浦英司についての調書だ。